反物質とは?基礎知識や性質をわかりやすく解説

先日、欧米・カナダなどで構成する国際研究チームが、反物質の重力落下を確認し話題になりました。今まで反物質も物質と同じ「重力」を持つだろうと思われていましたが、「反重力」を持つ可能性を否定できない状況でした。今回の発表でその可能性が否定されたことになります。

しかし、「そもそも反物質って何?」や「映画や漫画の空想上の話で、実在しないのでは?」と思っている方もいるでしょう。そこで本記事では反物質の基礎知識や性質をわかりやすく解説します。

反物質とは?存在しない物質?

反物質とは、簡単に説明すると反粒子で構成された物質です。また反粒子とは、プラス・マイナスの電荷が反対の粒子です。例えば、物質の原子核である陽子はプラスの電荷を持ちますが、反物質の反陽子はマイナスの電荷を持ちます。

つまり反物質は、物質と反対の電荷を持つ粒子で構成された物質のことです。

物質・反物質の構成

物質反物質
陽子(プラス)反陽子(マイナス)
中性子(マイナス)反中性子(プラス)

物質と反物質は、陽子・中性子などの粒子の電荷が反対なだけで、質量や寿命、特徴は同じです。また見た目も同じなため、外見ではどちらか判断できないといわれています。

しかし、私たちの宇宙はほとんどが物質で、反物質はほとんど存在していません。ほぼ存在しないものの実在するのが反物質なのです。

反物質の性質

地球だけではなく宇宙空間に、反物質がほとんど存在しない理由は、性質が大きく関係しています。

・対生成

・対消滅

ここでは、反物質の2つの性質をわかりやすく解説します。

対生成

対生成とは、エネルギーから物質が生成される際に、対となる反物質が同時に生成される現象のことです。

例えば、1個の水素が生成されると1個の反水素が同時に生成されます。

大規模な対生成が起きたのは、約137億年前の宇宙の始まりであるビッグバンです。ビッグバンのエネルギーにより、膨大な物質と反物質が作られ、現在の地球や宇宙のもとになりました。

対消滅

ビッグバンで膨大な量が作られたはずなのに、現在ではほとんど反物質が存在しない理由は、対消滅により消滅してしまったためです。

対消滅とは、対となる物質の素粒子と反物質の反粒子がぶつかることで、物質・反物質が消滅しエネルギーに変わる現象です。この際、粒子と反粒子の質量が100%エネルギーに変換されるため、膨大なエネルギーが発生します。

例えば反物質1gを対消滅させると、約90兆ジュールのエネルギーが発生します。広島の原爆が約60兆ジュールであることから、わずか1gで原子爆弾よりも大きなエネルギーを発生させられるのです。

このことから、SF映画や漫画で反物質爆弾などの兵器として描かれることがあります。しかし現時点で、反物質はごく少量しか作れないため、映画や漫画で描かれるような危険性はありません。

※ジュールはエネルギー量や仕事量の単位

反物質の歴史 

反物質の歴史は、1928年にイギリスのポール・ディラック氏が発表した「ディラック方程式」が始まりです。ディラック方程式を解くと、電子と正反対の特徴を持つ物質の可能性がでてきたため、まだ発見されていない未知の物質の存在が指摘されました。

その後の反物質の主な発見は以下のとおりです。

1932年:アメリカのアンダーソン氏が宇宙線のなかから陽電子を発見

1955年:粒子加速器を用いて反陽子・反中性子を発見

1995年:欧州原子核研究機構が陽電子と反電子から構成される「反水素」の生成に成功

2011年:アメリカで反ヘリウム原子核の合成に成功

2017年:京都大学の研究チームが、雷から反物質が対生成されるメカニズムを解明

2023年:反物質は物質と同様に重力落下することを確認

このように、反物質は可能性が指摘されてから100年も経っておらず、比較的新しい分野です。

物質・反物質の謎:CP対称性の破れ 

物質・反物質の関係で謎とされていることがあります。それは、宇宙には物質が多いのに、反物質がほとんどないことです。

物質・反物質はビッグバン直後から対生成されることで、膨大な量が生み出されました。対生成は同じ数の物質・反物質を生み出すため、ビッグバン直後はどちらも同じ数が存在していたはずです。

その後、対消滅により反物質はなくなりました。しかし、同じ数量の物質・反物質が対消滅すると、どちらもなくなり「無」の宇宙空間ができるはずです。

それなのに現状は物質が残っています。この理由を説明するための事象の1つが「CP対称性の破れ」です。Cは荷電共役変換(粒子を反粒子へ反転する操作)、Pはパリティ変換(物理系の空間座標を反転する操作)を指します。CPはCとPの操作(変換)を同時にすることを意味し、CP対称性は物理系でCP変換をしても不変であるという意味です。CP対称性は保たれていると思われていましたが、1964年にCP対称性が破れていることが発見されました。

Cは荷電共役変換(粒子を反粒子へ反転する操作)であり、CPを同時に行う対称性が破れています。この意味を簡単に説明すると、反対の電荷を持つという違いだけだと思われていた物質・反物質が、他に何らかの違いがあり、その結果現在の宇宙では物質が優勢になったと考えられるということです。

CP対称性の破れの解明に貢献した小林・益川理論 

1973年に小林誠氏と益川敏英氏により小林・益川理論が発表されます。その内容は、クォークが6種類あればCP対称性の破れが説明できるというものでした。

クォークとは、物質のもとになっている素粒子の1つで、ほかの素粒子にレプトンやゲージ粒子、ヒッグス粒子があります。

当時、クォークは3種類しか見つかっていませんでしたが、その後6種類が見つかり、2001年に小林・益川理論が正しいと示されました。その功績により、小林氏と益川氏は2008年にノーベル賞を受章しています。

ただし、小林・益川理論で説明した破れだけでは、宇宙に物質のみが残ったことを説明しきれない部分があることも判明しています。そのため、世界中の科学者が研究をしています。

反物質の重力落下が確認される 

反物質は物質を鏡で映したかのように、外見・質量は同じなのに電荷が正反対という特徴を持ちます。電荷と同様に重力に対しても、正反対の特性である反重力を持つのではないかと長年議論されてきました。

これまでは反物質が重力落下するかどうかを確認しようにも、観測できませんでした。作り出せる反物質の量はごくわずかで、すぐに消滅してしまうためです。

しかし、今回の欧米・カナダなどの国際研究チームが反物質の重力落下を確認したことで、長らく続いた議論に終止符が打たれました。また今回の成果は、制御が困難とされてきた反物質の制御技術の進歩を示しているといえるでしょう。

すでに反物質の技術は活用されている 

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反物質の技術が進歩しても宇宙の謎の解明に近づくだけで、一般人に関係ないのではと感じている方もいるでしょう。しかし反物質の技術は、すでに医療分野で活用されており、多くの方の健康を守っています。

具体的にはPET検査です。PETはPositron Emission Tomographyの略で、訳すと陽電子断層撮影法です。PET検査は、がん細胞が正常な細胞よりもブドウ糖を多く取り込む性質を利用し、がんを早期発見します。

どのように陽電子が活用されているかといえば、検査薬に陽電子を放出するブドウ糖が使われています。検査薬を静脈に注射し、検出器でスキャンすることで、がんの部分が光って見えるのです。

反物質の技術は進歩している

反物質の謎の解明は、宇宙の成り立ちを知るうえで重要です。そのため、多くの科学者が反物質の研究に励んでいます。今回は、反物質が物質と同様に重力落下するという研究の成果が発表されました。

この結果は、反物質の技術が進歩していることを意味しています。今後、反物質の技術が身近になるときが来るかもしれません。宇宙の話が好きな方もそうでない方も、反物質の話題を定期的にチェックしてみてはいかがでしょうか。

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