今さら聞けない人間拡張とは?種類・事例・問題点を徹底解説

「人間拡張」という言葉を聞いたことがありますか。

AIやIoTなどの技術と人間の一体化により、人間の機能を拡張することを指す言葉です。世界市場の急激な拡大が予想されるなか、注目されているキーワードになります。

今さら聞けないと感じている方のために、本記事では人間拡張の基礎知識とサービス事例をわかりやすく紹介します。

人間拡張とは?

人間拡張とは、人間の持つ身体能力や感覚をテクノロジーによって機能を拡張させることです。具体的にはAIやIoTなどのデバイスと人間を一体化することで、人間の運動能力や知覚などを強化できます。

例えば介護施設で活躍しているパワーアシストスーツは、装着することで介護者の体への負担を減らしてくれる装置です。人間がデバイスを装着することで、身体能力を強化できていることから、十分に人間拡張といえるでしょう。

人間拡張のポイントは、「人間とデバイスの一体化」で「人間の能力の拡張」ができているかどうかになります。

人間拡張は4つの種類に分類できる

人間の機能を機械により拡張すると聞くと「サイボーグ」を連想してしまい、身体能力の強化が目的と感じるかもしれません。しかし必ずしも、身体能力の強化だけではありません。

人間拡張は人間のどの機能を拡張するかによって、4つの種類に分類できます。

  • 身体の拡張
  • 存在の拡張
  • 感覚の拡張
  • 認知の拡張

身体の拡張

身体の拡張は人間の器官が持つ能力を拡張することで、パワーアシストスーツによる筋力の補助や、義手・義足などのように能力を補填するデバイスのことです。

人間は3本目の腕を持ち合わせていませんが、身体の拡張をすることで、第3の腕を自由自在に動かすことも可能になります。3本目の腕を自由自在に動かせると、様々な業務の効率が向上すると期待されています。

例えば、料理の場面をイメージしてください。本来の2本の腕で食材をカットしつつ、第3の腕でフライパンを振ることも実現できるのです。

存在の拡張

存在の拡張とは、遠隔地や仮想空間で自分の分身体を操作することで、まるでその場にいるかのように活動ができる技術のことです。例えば、遠隔医療ロボットやアバターロボット、デジタルアバターなどがあげられます。

  • 遠隔医療ロボット

遠隔医療ロボットは医者が手術支援ロボットを遠隔操作することで、まるで専門医がその場で執刀しているかのように手術ができるロボットです。この技術により、医師不足や高度な技術を持つ専門医がいない地域でも、最先端の手術が受けられます。

  • アバターロボット

アバターロボットは、簡単にいえば遠隔地から操作するロボットのことです。一般的にテレビ会議システム・ロボット・遠隔技術を組み合わせており、遠隔地から操作できる分身体といえます。障がい者の方がアバターロボットを利用し、自宅から接客業に就くといった用途にも使われています。

  • デジタルアバター

デジタルアバターは仮想空間における分身体のことです。デジタルアバターを操作することで、まるで自分がデジタル空間に存在しているかのように振る舞えます。

また、コロナの流行により普及したオンライン会議も遠隔地から存在を移動できるため、存在の拡張の技術といえます。

感覚の拡張

感覚の拡張とは、視覚や聴覚などの感覚を技術で強化したり、視覚障がい者のために、視覚情報を皮膚感覚に置き換えたりする技術のことです。

代表例としてVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、補聴器などがあげられます。

  • VR(仮想現実)

専用のゴーグルを装着し、ゴーグル内のレンズに画像を写すことで、360°に広がるデジタル空間にいるかのような疑似体験ができます。

  • AR(拡張現実)

ARは現実世界の情報に、仮想世界のデジタル情報を重ね合わせることで、視覚を拡張できる技術です。スマートグラスと呼ばれるメガネのようなARデバイスを利用すると、現実世界に連動した様々なデータを同時に表示できます。

また感覚拡張の次世代の技術である感覚共有は、盛んに研究・開発されている分野になります。

認知の拡張

認知の拡張とは、人間とAIが融合することにより脳の能力を拡張する技術です。知能や認知能力の向上、認知症予防、言語の壁をなくすことなどが期待されています。

とくにブレインチップと呼ばれる、小さなチップ状のデバイスの研究が注目を集めています。ブレインチップは脳に埋め込むことで、人間の記憶力を高めたり、脳で考えるだけで電子機器を操作したりできるためです。

人間拡張の市場規模は2026年に約44兆円に

MarketsandMarkets社の調査によると、2021年の人間拡張の世界市場規模は1,317億ドル(約17兆円)でした。それが、2026年には3,412億ドル(約44兆円)に達すると予想されています。2021年から2026年までの年平均成長率は21.0%で、急激な市場規模の拡大が予想されています。

世界的に急拡大が予想される人間拡張の分野は、これからビジネスチャンスが増える分野ともいえるでしょう。

人間拡張のサービス事例

人間拡張はまだまだ研究段階の部分も多く、「どのようなサービスが開発されているの?」と疑問に感じている方もいるでしょう。そこでこの章では、話題の人間拡張のサービス事例を2つ紹介します。

超人スポーツ「CYBER WHEEL X」

出典:超人スポーツ「CYBER WHEEL X

超人スポーツは、人間拡張工学に基づき発明されたスポーツのことです。その名のとおり誰でも超人になれるスポーツで、体力差や障がいの有無を超えて楽しめるとして話題を集めています。

超人スポーツプロジェクトにより数多くのスポーツが発明されていますが、今回はそのなかから「CYBER WHEEL X」を紹介します。

「CYBER WHEEL X」は、2100年の近未来をイメージしたメタバース上のコースを疾走する対戦型車いすレースです。車いすの操作とVRの映像が連動し、安全に迫力ある車いすレースを楽しめます。

ドコモ「人間拡張基盤」

出典:ドコモ「あなたと常識を変えていく。人間拡張基盤

ドコモが6G時代を見据え、開発を進めているのが「人間拡張基盤」です。具体的には感覚共有の実現を目指しており、将来はトッププロのスキルをダウンロードできる時代がやってくるかもしれません。

例えば、プロのピアノ演奏者の手や指の動かし方を感覚共有して学習できるといった具合です。

なお6Gとは、現在の5Gよりも高速大容量通信が可能な次世代の通信規格で、2030年ごろに商用化が見込まれています。

人間拡張の問題点

人間拡張はこれから発展が期待されている分野です。しかし、以下のように問題点も多くあります。

  • 研究の進捗状況

VRやARなどのように一部の技術は開発に成功していますが、多くの技術はまだまだ研究段階で、いつ開発に成功するかわからない

  • 倫理的問題

脳にブレインチップを埋め込むなど、人とデバイスの一体化は倫理的に問題視される可能性がある

  • 法整備

倫理に反しないように人間拡張の研究や実現をどこまで許すかなど、各国での法整備が進んでいない

ただし市場規模の拡大とともに、これらの問題は解決する可能性もあります。

人間拡張に参入するなら今がチャンス

世界市場の急激な拡大により、人間拡張は今後注目を集めるキーワードとなるでしょう。まだまだ問題点もある今だからこそ、早い段階から参入することで多くのビジネスチャンスを掴める可能性があります。ぜひこの機会に、人間拡張の新規事業案を考えてみてはいかがでしょうか。

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