2023年11月30日からドバイで開催されたCOP28(国連気候変動枠組条約締約国会議)において、日本は国際環境NGOから「化石賞」を受賞しました。これで、日本は4年連続の受賞です。
化石賞は脱炭素に後ろ向きな国・地域に贈られるため、不名誉な賞として知られています。
「なぜ日本が化石賞に受賞するの?」と思う方も多いでしょう。本記事では化石賞の概要と日本の受賞理由について紹介します。
化石賞とは
化石賞とは、気候変動対策や脱炭素化に後ろ向きな国に贈られる不名誉な賞のことです。COP開催中に、国際環境NGO「Climate Action Network」がほぼ毎日「本日の化石賞」を発表しています。
ただしCOP期間中に発表されるものの、化石賞は民間団体による活動で国連とは関係ありません。
主催者のClimate Action Networkとは
国際環境NGOのClimate Action Network(気候変動ネットワーク)は、130カ国・1,800以上のNGOで構成される団体です。略してCANと呼ばれています。
主な活動内容は、気候変動や脱炭素化に向けた取り組みを加速させることです。COPやサミットの際に化石賞や政策提言を発表しています。
CAN-Japanの政策提言の一例
化石賞はいつから始まった?
化石賞が始まったのは、1999年のドイツで開催されたCOP5です。
日本はそのCOP5で化石賞を受賞しています。その後も何度も受賞しており、日本は化石賞の常連国といえます。
化石賞の目的
化石賞の目的は、Climate Action Networkが目指す社会の実現です。CAN-Japanでは、「大気中の温室効果ガスの濃度を安定させること」を究極の目標に掲げています。
そのためには、以下の5つが重要としています。
- 2020年の国際的な枠組みを推進すること
- 日本政府が野心的な目標を掲げるように働きかけること
- 気候変動問題に対して関心や理解を深めること
- 再生可能エネルギーの大幅導入や「低炭素社会」を構築すること
- 日本の市民・NGOと世界の市民・NGOの連携した活動が展開されること
化石燃料から再生可能エネルギーにシフトさせ、温室効果ガスが増えないように活動しているのがClimate Action Networkです。
参照:CAN-Japan「CAN-Japanとは」
本日の宝石賞
日本では化石賞ばかりに注目が集まっていますが、CANは「本日の宝石賞」も発表しています。
「本日の宝石賞」とは、COPの交渉において希望の光となる国に贈呈される賞です。
日本も条件つきであるものの、宝石賞を受賞したことがあります。COP20において、事前協議に締約国だけではなく、NGOを含むオブザーバーの参加を認めるように主張したためです。
その際は、条件があることから「あと1歩で宝石賞」という名前でした。
ほかにも変わった名前の賞を受賞しているのはアメリカです。COP6でブッシュ大統領が京都議定書の不支持を表明したことから、「今世紀の化石賞」を受賞しています。
日本が化石賞を受賞する理由
日本は2023年の化石賞で、4年連続の受賞となりました。日本が化石賞の常連国であることが、不思議な方もいるでしょう。そこで、受賞理由の一部を紹介します。
COP28(2023年):グリーンウォッシュ
COP28での受賞理由は、グリーンウォッシュ(見せかけの環境対策)です。
岸田首相は世界の脱炭素化に貢献する取り組みとして、化石燃料と水素・アンモニアの混焼を提案しました。しかし、CAN-Japanは「日本やアジアの石炭・ガスを延命させる取り組み」と強く非難しています。
さらに、アジア周辺各国の再生可能エネルギーを遅らせる原因になるとしています。このことから、日本の提案はグリーンウォッシュだとして、化石賞を受賞しました。
参照:CAN-Japan「COP28にて日本が「本日の化石賞」をニュージーランド、アメリカとともに受賞」
COP27(2022年):化石燃料プロジェクトへの支援
COP27で日本が化石賞を受賞した理由は、化石燃料プロジェクトを支援しているためです。
アメリカのNGOのオイル・チェンジ・インターナショナルがまとめたレポートによると、日本が化石燃料プロジェクトに対して世界最大の公的資金を投入していたとのことです。同報告書によると、日本は3年間で総額4兆7,700億円を化石燃料プロジェクトに拠出していました。
CANは、2030年以降も石炭火力発電を延命させる間違った解決策だとして非難しています。
参照:Oil Change International「アジアと世界のエネルギー転換の足かせとなる日本の化石燃料への公的支援」
COP16(2010年):京都議定書第2約束期間への不参加
COP16では、日本が京都議定書第2約束期間への不参加の表明を理由に化石賞を受賞しました。
京都議定書第2約束期間とは、京都議定書で定められた数値目標を達成する期間のことです。第1約束期間は2008年~2012年で、第2約束期間は2013年~2020年を指します。
日本は第1約束期間の目標を達成したものの、第2約束期間については途上国に排出量削減が義務付けられていないことを不服に不参加の表明をしました。
この際、京都議定書の母国である日本が京都議定書の取り組みに後ろ向きだとして非難されています。
歴代の化石賞を受賞した国・地域
これほど多くの化石賞を日本が受賞していると、「ほかに受賞している国はあるの?」と思うかもしれません。そこで、2021年・2022年の化石賞の受賞国一覧を紹介します。
2023年の化石賞一覧
12月3日 | ニュージーランド、日本、アメリカ |
12月4日 | ブラジル |
12月5日 | アメリカ、ロシア、日本 |
12月6日 | カナダ、ノルウェー、韓国 |
12月8日 | イスラエル、ロシア、オーストラリア |
12月9日 | EU、ベトナム |
12月10日 | イスラエル |
12月11日 | サウジアラビア、アメリカ |
2022年の化石賞一覧
11月9日 | 日本 |
11月10日 | エジプト |
11月11日 | アメリカ、ロシア、エジプト、UAE |
11月12日 | アメリカ |
11月14日 | ニュージーランド |
11月15日 | トルコ |
11月16日 | ロシア |
11月17日 | エジプト、イスラエル |
11月18日 | アメリカ |
一覧を見ると、一部の国が何度も受賞していることがわかるでしょう。
日本の脱炭素化の取り組み
何度も化石賞を受賞している日本ですが、本当に脱炭素化に対して後ろ向きかといえばそうではありません。2030年に二酸化炭素排出量の46%削減、2050年のカーボンニュートラルの実現を目標にさまざまな対策をしています。
例えば、2023年の化石賞の受賞原因となった、化石燃料とアンモニア・水素の混焼による二酸化炭素削減もその対策の1つです。
アンモニアや水素を燃焼しても二酸化炭素を排出しません。そのため、化石燃料とアンモニアを混焼すると、二酸化炭素の排出量を抑制できます。現状できる地球温暖化対策として有効な手法と考えられています。
つまり、脱炭素化を阻害するのではなく、二酸化炭素排出を抑制する技術といえるでしょう。
化石賞はCANが主張するためのショータイム
日本は残念ながら化石賞の常連国です。しかし、化石賞を受賞したからといって、日本が脱炭素化に後ろ向きということではありません。また国際社会からもそのように判断されているともいえないでしょう。
なぜなら化石賞は、CANの主義・主張を広めるためのショーのためです。
それは化石賞の受賞歴からも明らかで、世界最大の二酸化炭素排出国である中国が化石賞を受賞していません。この理由は、中国でNGOの活動がしにくくなるためと指摘されています。またドイツも同様に、褐炭や石炭による発電量が増えていますが化石賞を受賞していません。 つまり、化石賞はCANの主義・主張をもとにした意見に過ぎないため、COPが開催されたときの1つのショーとして楽しむのが良いでしょう。