蛍光灯の製造が禁止される?水銀に関する水俣条約会議の概要を解説

2023年10月30日、水銀に関する水俣条約第5回締約国会議が開催されました。新たに直管蛍光灯の製造・輸出入が2027年までに禁止されるなど、水銀を含んだ製品の製造がますます厳しくなります。

ここで、以下のように疑問を感じてしまう方もいるでしょう。

「なぜ蛍光灯が禁止されるのか?」

「水俣条約の内容について知りたい」

「製品に水銀が含まれているとなぜ問題なのか?」

そこで本記事では、水銀に関する水俣条約会議の概要をわかりやすく解説します。

水俣病とは、どんな病気?

水俣病は、1956年の熊本県の水俣湾周辺ではじめて患者が確認された病気です。

その原因は、近隣の化学工場から排出されたメチル水銀化合物でした。川や海に流出したメチル水銀化合物は、食物連鎖により魚の内部で濃度が高まり、その魚を食べた人がメチル水銀の中毒症状を起こしたためです。水俣病の症状は以下のとおりです。

●水俣病の症状

  • 四肢末端の感覚障がい
  • 小脳性運動失調
  • 両側性求心性視野狭窄
  • 中枢性眼球運動障がい
  • 中枢性聴力障がい
  • 中枢性の平衡機能障がい
  • 脳性小児マヒ(妊婦がメチル水銀に暴露されると胎児が発症)

参考:熊本県ホームページ「水俣病の発生・症候

2022年4月末時点で2,284人が水俣病と認定されています。加えて、水俣病被害者救済特措法に基づく救済措置では、32,249人が一時金対象該当者と認定されました。つまり、非常に多くの方が苦しんだのが水俣病なのです。

水銀に関する水俣条例会議とは?

水俣病の原因である水銀は様々な製品や用途に使われているため、世界から水銀汚染のリスクがなくなったわけではありません。そこで日本の水俣病の経験から、水銀汚染による人への健康および環境保護を目的として、2013年に熊本県で外交会議が行われました。

外交会議では140カ国の関係者が参加し、「水銀に関する水俣条約」を採択します。2017年、日本を含む50カ国が締結したことで条約が発効しました。

その「水銀に関する水俣条約」の議論をするための国際的な会議が「水銀に関する水俣条約 締約国会議」です。第1回~第4回までの流れを簡単に解説します。

  • 第1回締約国会議

第1回は2017年にジュネーブで開催され、主に「事務局の組織体制、予算」や「実施状況の報告、有効性評価に関する技術」について議論されました。

  • 第2回締約国会議

第2回締約国会議は翌年の2018年11月に、条約実施のための技術的ルールや運営に関する議論が行われ、「水銀の暫定的保管のガイドライン」が採択されました。つまり、一時的に保管される水銀や水銀廃棄物について、適切な管理をするように決定しています。

  • 第3回締約国会議

2019年に行われた第3回締約国会議では、技術的ルールや活動計画・予算・条約の詳細なルール作りが議論されました。

  • 第4回締約国会議

2022年にインドネシア・パリで開催された第4回締約国会議では、16種類の水銀添加製品の規制が検討されました。そのなかで以下の8種類の水銀添加製品は、2025年末までに製造および輸出入を禁止することが合意されます。

第4回締約国会議で廃止期限が決まった製品一覧

①一般的な照明用の点灯回路内蔵型コンパクト蛍光ランプ

②電子ディスプレイ用の冷陰極蛍光ランプおよび外部電極蛍光ランプ

③脈波計として使用されるひずみゲージ

④溶融圧力トランスデューサ、溶融圧力トランスミッタ―と溶融圧力センサー

⑤水銀真空ポンプ

⑥タイヤバランサーとホイールウエイト

⑦写真フィルムと印画紙

⑧人工衛星および宇宙機に用いる推進剤

参考:経済産業省「水銀に関する水俣条約第4回締約国会議の結果について

第4回で合意に至らなかった一部の水銀添加製品は、第5回締約国会議で議論されることになりました。

水銀に関する水俣条約第5回締約国会議

2023年10月30日から11月3日まで、スイスのジュネーブで水銀に関する水俣条約第5回締約国会議が開催されました。第5回締約国会議での注目ポイントは以下の3つです。

  • 蛍光灯の製造・輸出入が2027年末までに禁止される

第4回締約国会議で結論がでなかった水銀添加製品について議論され、新たに9種類が2027年末までに製造・輸出入が禁止されることになりました。

禁止される製品には、直管蛍光灯も含まれており、これで2027年までにすべての一般照明用の蛍光灯が対象となります。

ただし、国内における流通・販売は可能なため、2027年になるとすぐに蛍光灯が入手できなくなるわけではありません。

  • 水銀汚染廃棄物の閾値

第2回締約国会議でのテーマでもあった水銀汚染廃棄物の閾値は、水銀含有濃度15mg/kgに決定しました。

これにより水銀汚染廃棄物は処分する前に、規定値以下まで水銀を回収する必要があります。つまり水銀を回収することで、環境への流出を抑える目的があります。

水銀に関する水俣条約会議では水銀の使用禁止だけではなく、廃棄物からの流出を抑えることも大きな課題として考えられているのです。

  • 零細小規模金採掘(ASGM)への対応

零細小規模金採掘とは、水銀を利用して金を採掘する方法です。具体的には、採石した鉱石を細かく砕いて水銀と加熱することで、金を水銀にくっつけます。さらに、金と水銀の合金を加熱し水銀を蒸発させ、金を取り出すのです。

金を容易に取り出せることや安価であることから、世界中で行われています。この採掘法の問題点は労働者が高濃度の水銀にさらされることや、蒸発した水銀が雨で降り注ぎ、人や環境に大きな影響を与えることです。

第5回締約会議では、締約国内で零細小規模金採掘が無視できない場合、対策が求められるようになります。

蛍光灯からLEDへの切り替えが必要

水銀に関する水俣条約で、日本国内において大きな影響があるのは、蛍光灯の製造が禁止されることでしょう。蛍光ランプ・蛍光灯は、以下のスケジュールで製造が禁止されます。

  • 2020年末までに水銀ランプの製造・輸出入を禁止
  • 2025年末までに電球型蛍光灯の製造・輸出入を禁止
  • 2027年末までに直管蛍光灯の製造・輸出入を禁止

つまり、2027年末までにはすべての蛍光灯が製造されなくなるのです。

また、すでに主要メーカーは蛍光ランプや蛍光灯器具の製造を中止しており、LED化を加速させています。一般社団法人日本照明工業会の2022年の調査によると、住宅用の照明器具はLEDが99.6%選ばれており、従来の光源器具は1%未満です。

このことからもわかるように、これからは蛍光灯ではなく、LEDを選択する時代になっています。

補足として40Wの蛍光管の内側には、1本あたり7mg~10mgの水銀が含まれています。一方、LEDは水銀を使用していません。

蛍光灯とLEDのメリット・デメリット

蛍光灯とLEDのメリット・デメリットをまとめると以下のとおりです。

蛍光灯LED
メリット・価格が安い
・色の調整がしやすい
・耐久性に優れている
・調光のコントロールができる
・ランニングコストが安い
・環境に優しい
デメリット・寿命が短い・初期投資に費用がかかる
・熱に弱い

このようにLEDは水銀フリーだけではなく、約40,000~50,000時間と言われるほどの長寿命が魅力です。蛍光灯は約1,000時間なので、40~50倍の違いになります。

さらにLEDは、蛍光灯よりも2分の1~10分の1程度電気代が安くなります。つまり、蛍光灯からLEDにすることで環境に配慮しながら、ランニングコストを抑えることにもつながるのです。

水銀を含んだ製品の製造は禁止される流れ

水銀に関する水俣条約により、水銀を含んだ製品の製造や輸出入、廃棄などはますます厳しくなるでしょう。第5回締約国会議では直管蛍光灯の製造禁止の時期も決定しています。蛍光灯を利用している場合は、LEDへの切り替えを検討する必要があるでしょう。