ペロブスカイト型太陽電池とは?メリット・デメリット・実用化の取り組み

ペロブスカイト型太陽電池は、次世代型太陽電池として実用化が期待されています。従来のシリコン型太陽電池では実現できなかった、シート状の太陽電池を実現できることで、幅広い場所に発電機能をプラスできるでしょう。

本記事ではペロブスカイト型太陽電池の概要やメリット・デメリット、実用化に向けた取り組みを紹介します。

日本発のペロブスカイト型太陽電池とは?

ペロブスカイト型太陽電池とは、太陽光のエネルギーを変換する結晶にペロブスカイト構造を用いた太陽電池です。2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授により発見されました。発見当初は、変換効率が3%台と効率が悪く、あまり注目されていない技術でした。

それが一気に注目を集める技術になったのは、2011年のオックスフォード大学のヘンリー・スネイス教授と産総研の村上拓郎氏の共同研究で、変換効率が10%を超えたためです。

現在では、変換効率が20%を超え、従来のシリコン型太陽電池とそん色のないレベルまで研究が進んでいます。

※変換効率とは、太陽光のエネルギーを電気に変換できる効率で、高いほど多くの電気を生み出せる

ペロブスカイト構造とは?

ペロブスカイトとは、ロシアのペロフスキー氏が発見した鉱物です。ペロブスカイト構造とは、ペロブスカイトの独特の結晶構造を指します。

またペロブスカイト構造は、ペロブスカイト以外でもヨウ素や鉛、メチルアンモニウムなどから合成が可能です。理論上、化学物質の組み合わせは数百種類以上あるといわれています。

ペロブスカイト型太陽電池のメリット

ペロブスカイト型太陽電池が注目され、実用化が期待される理由は、以下の5つのメリットにあります。

  • 薄くて軽く、シート状にできる
  • 折り曲げに耐性がある
  • 材料の塗布や印刷で作成できる
  • 比較的入手しやすい原料で作れる
  • 弱い光でも発電できる

これらの特徴により、これまでの太陽電池では実現できなかった使い方ができると期待されているのです。

メリット① 薄くて軽く、シート状に作れる

ペロブスカイト型太陽電池のメリットは、薄くて軽く、シート状にできることです。

従来のシリコン型太陽電池は、薄くすると太陽光を吸収できず変換効率が低下するという欠点があります。そのため、ある程度の厚みが必要です。

一方、ペロブスカイト型太陽電池はシリコン型太陽電池よりも100分の1の薄さにすることが可能です。薄い分、重量も10分の1の軽さを実現できます。

その薄さから、シート状に作れるのがペロブスカイト型太陽電池の最大の特徴といえるでしょう。

メリット② 折り曲げに耐性がある

ペロブスカイト型太陽電池は、ペロブスカイト構造の小さな結晶が薄い膜を形成するため、折り曲げに強いのがメリットです。そのため、シート状にして折り曲げても破損せずに、太陽電池としての機能を維持できます。

またシリコン型太陽電池は、ある程度の厚さが必要なことから割れやすく、折り曲げることはできません。

メリット③ 材料の塗布や印刷で作れる

ペロブスカイト型太陽電池は、材料の塗布や印刷で作れます。シンプルな製法のため、大量生産することで生産コストが下がると期待されています。また、どのような形にも対応できるので、フレキシブルな使い方ができるのも魅力です。

なお、シリコン型太陽電池の作り方はシリコンを高温で溶かし、徐々に冷却してから薄くスライスします。スライスした四角形の板はウエハと呼ばれ、さらに処理を加えたのち、モジュールに組み込まれ太陽電池になります。

メリット④ 比較的入手しやすい原料で作れる

ペロブスカイト型太陽電池の主な原料はヨウ素です。

日本はヨウ素の生産量がチリに次ぐ世界2位で、年間約1万トンを生産しています。原料が入手しやすいペロブスカイト型太陽電池は、次の日本を担う産業としても期待されています。

また原料に高価な貴金属などを使わないため、製造コストを抑えられるのもメリットです。

メリット⑤ 弱い光でも発電できる

ペロブスカイト型太陽電池は、屋内の光で発電できるほど、弱い光でも発電できるのがメリットです。つまり、曇りなどの光が弱い日でもしっかりと発電してくれます。

一方シリコン型太陽電池は、屋内などの弱い光だと変換効率が落ちるため、曇りの日に発電量が低下します。

ペロブスカイト型太陽電池のデメリット

ペロブスカイト型太陽電池のメリットを聞くと、夢のような技術と思うかもしれません。しかしまだデメリットも多く、課題の解決に向けた研究が進められています。

デメリット① 寿命が短い

ペロブスカイト型太陽電池は、保護する処理をしないで光を当てるとすぐに劣化してしまい、変換効率が低下します。室内の弱い光でも性能が劣化するほどです。

この耐久性の弱さが課題で、開発当初のペロブスカイト型太陽電池の寿命は数分という短さでした。

現在でも寿命は10年程といわれ、シリコン型太陽電池の20年と比較すると劣っています。

ただし、プリンストン大学の研究チームは、30年の寿命を持つペロブスカイト型太陽電池の開発に成功しています。今後は、シリコン型太陽電池に負けない耐久性を持つ製品が普及するかもしれません。

デメリット② 原料に鉛を含んでいる

ペロブスカイト型太陽電池は、原料に鉛が使われているのがデメリットです。鉛が少量でも漏れ出すと、健康や環境への影響が懸念されるためです。

そこで、鉛を含まない鉛フリーのペロブスカイト型太陽電池の研究が進められています。鉛を使わずに高い変換効率が実現できるかが実用化のカギとなります。

ペロブスカイト型太陽電池とシリコン型太陽電池の比較

ペロブスカイト型太陽電池とシリコン型太陽電池の比較として、メリット・デメリットを以下の表にまとめました。

ペロブスカイト型太陽電池シリコン型太陽電池
メリット・薄くて軽い
・折り曲げに耐性がある
・塗布や印刷で作成できる
・入手しやすい原料で作れる
・弱い光でも発電できる
・寿命が長い
・量産体制が確立している
デメリット・寿命が短い
・原料に鉛を含んでいる
・重くて硬い
・弱い光で変換効率が低下

ペロブスカイト型太陽電池に関する日本の最新動向

「ペロブスカイト型太陽電池はいつ実用化するの?」と感じている方も多いでしょう。そこで、実用化に向けた、日本の最新動向についてお届けします。

政府の目標は「2025年の実用化」

2023年10月3日、岸田首相はカーボンニュートラル実現のため、2025年にペロブスカイト型太陽電池の実用化を目指すことを表明しました。そのため、今後は政府の支援などにより、一層開発・研究が推進されるでしょう。

日揮ホールディングス:北海道で2024年から実証実験をスタート

出典:日揮ホールディングス

日揮ホールディングスは、2024年から北海道苫小牧市の物流施設でペロブスカイト型太陽電池の実証実験を行います。北海道における実証実験は国内初で、寒冷地におけるペロブスカイト型太陽電池の性能をテストします。

実証期間は1年で、凹凸のある屋根や壁面に設置し、発電効率や塩害・降雪地域での耐久性をテストする予定です。

パナソニックホールディングス:発電するガラス

出典:Perovskite Photovoltaics Glass

パナソニックホールディングスは、ペロブスカイト型太陽電池事業に2028年までに参入する予定です。同プロジェクトでは、窓ガラスとペロブスカイト型太陽電池を組み合わせることで、発電するガラスの実現を目指しています。

すでに実証実験を始めており、実用化が期待されています。

2025年の実用化で日本がイニシアティブをとれるか

ペロブスカイト型太陽電池は日本で生まれた技術ですが、その有用性から海外でも積極的に開発が進められています。とくに中国は、大量生産のフェーズに入っており、1歩進んでいるのが現状です。

そのようななか、政府の目標である「2025年の実用化」で、日本がペロブスカイト型太陽電池において主導権を握れるかが注目されています。

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