物流テックは、物流業界で注目されているキーワードです。
簡単にいえば、IT・AI・ロボット・ドローンなどの最新テクノロジーと物流を組み合わせた取り組みです。物流テックが普及することにより、業務の効率化や人材不足の解消が期待されています。
本記事では物流テックの基礎知識や市場規模、取り組み事例について紹介します。
物流テックとは?
物流テックとは、「物流」と「テクノロジー」を組み合わせた造語です。ITやIoT、ロボットなどの最新テクノロジーを活用し、業務の効率化・最適化を図る取り組みを意味します。
物流テックの普及で解決が期待されている課題
物流テックの普及により、以下の物流業界の課題を解決できると期待されています。
- 荷物量の増加への対応
- 人材不足の緩和
- CO2排出量の削減
荷物量の増加への対応
物流業界の抱えている課題の1つは、急増する荷物量への対応です。
近年、EC市場の拡大により大幅に宅配便数は増加していますが、このまま増加を続けると現状の物流システムでは対応できなくなると懸念されています。どのくらい宅配便が増えているかといえば、国土交通省の調べによると以下のとおりです。
2012年の35億個が2017年には40億個、2022年には50億個と急拡大しているのです。宅配便数は右肩上がりに増えていることから、今後も拡大傾向が続くと見込まれています。
このような荷物量に対応するためには、物流テックで業務を自動化し、効率化を図る必要があるのです。
人材不足の緩和
物流業界の喫緊の課題は人材不足です。
トラックドライバーは年々減少しているのに加えて、平均年齢も高まり、担い手の減少が進んでいます。さらに2024年に、トラックドライバーの時間外労働を960時間までとする規制で、人材不足が深刻化するとみられています。
出典:国土交通省「ロジスティクスコンセプト2030」
グラフでも減少が予想されているように、少子高齢化の我が国において、人材不足が急に解消する見込みはありません。そこで、物流テックによる省人化に期待が集まっているのです。
CO2排出量の削減
地球温暖化や大気汚染への関心の高まりから、物流業界においてもCO2排出量の削減が求められています。とくに問題と指摘されているのは、宅配便の再配達と荷待ち時間です。
- 宅配便の再配達
宅配便の再配達は、トラックドライバーの負担が増えるだけではなく、CO2の排出量を増やす原因にもなります。
- 荷待ち時間
荷待ち時間とは、倉庫や荷主の都合によりトラックが待機していることを指します。例えば、別のトラックが積み込み作業を終えるまで待機するといった具合です。待機中のアイドリング(エンジンをかけた状態で停車すること)がCO2排出量増加の原因です。
これらの問題には、注文者がさまざまな実店舗で商品を受け取れる「クリック&コレクト」のシステム構築や、トラック予約受付システムが有効です。つまり、ソフト面においても物流テックが期待されています。
物流テックの市場規模は2030年に1兆1,831億円
物流テックの市場規模は、富士経済グループの調査によると2030年に1兆1,831億円に拡大すると見込まれています。内訳は以下のとおりです。
出典:富士経済グループ「次世代物流システム・サービス市場を調査」を参考に作成
2022年の市場規模より約78%の増加で、今後も注目される市場であるとわかります。各項目について簡単に解説します。
- ロボティクス・オートメーション
ロボティクス・オートメーションとは、無人搬送機や物流ロボットシステムなどのように自動化・省人化に役立つソリューション
- ロジスティクス・ファシリティ
ロジスティクス・ファシリティは立体自動倉庫システムのように、ロボットや機器を組み合わせたトータルソリューション
- ラストワンマイル
ラストワンマイルは宅配ボックスや無人宅配、物流向けドローンなど最終拠点からエンドユーザーまでの物流に役立つソリューション
- IoT(ハードウェア・ソリューション)
スマートグラスやAI画像認識活用物流システムといった物流現場の情報をデータ化するための機器
- IoT(ソフトウェア・ソリューション)
倉庫管理システム(WMS)やトラック予約受付システムなどの業務支援ツール
- サービス
通販フルフィルメントや倉庫シェアリングなどのサービス
このように、物流テックには幅広い分野があるのです。
物流テックの取り組み事例
物流テックはどの物流業務と技術を組み合わせるかによって、種類が異なります。
●物流テックの例
- コンテナ積み込み自動化
- 自動フォークリフト
- 自動運転トラック搬送
- 自立移動ロボット
- ドローン物流
- ピッキング自動化
- 倉庫・荷主マッチング
この章では、注目されている物流テックの事例を3つ紹介します。
ヤマト運輸:クリック&コレクト
出典:ヤマトホールディングス
ヤマト運輸は2020年11月にECエコシステムの構築の一環として、「クリック&コレクトシステム」を導入しました。「クリック&コレクトシステム」とは、ECサイトで購入した商品を、購入者がスーパーマーケットやドラッグストアなどの実店舗で受け取れるサービスです。
よく利用する実店舗を指定することで、生活スタイルに合わせて商品を受け取れるのが魅力です。またヤマト運輸は2次元バーコードを活用し、実店舗でスムーズに受け取れるようにしています。
「クリック&コレクトシステム」は再配達を減らし、ユーザーの利便性も高まるサービスとして注目されています。
日本郵政:ドローンの自動飛行
出典:日本郵政グループ
日本郵政は2023年3月24日に、日本ではじめてドローンによる「レベル4」飛行での配送トライアルを実施しました。ドローンのレベル別の飛行内容は、以下のとおりです。
レベル1:目視内での手動操作による飛行
レベル2:目視内での自動・自立飛行
レベル3:無人地帯における目視外での自立飛行
レベル4:有人地帯における目視外での自立飛行
つまり、実践に近い形での物流向けドローンによる配送トライアルといえます。結果はレベル3の配送よりも飛行距離・飛行時間が短縮され、よりスピーディに配達ができました。
今後は山間部や被災地などの配送手段として期待されています。
福岡運輸:バース予約・受付システム
出典:福岡運輸株式会社
福岡運輸は、2019年1月にバース予約・受付システム(トラック予約受付システム)を導入した企業です。
バースとは、荷物の積み下ろしのためにトラックを駐車する場所のことです。バース予約・受付システムの導入は、荷待ち時間の削減・近隣住民への迷惑の解消を目的としています。
システムの内容は簡単にいえば、順番が近づくとドライバーに連絡する仕組みです。このシステムを導入したことにより、倉庫周辺の待機トラックや倉庫内貨物の可視化で業務の効率化につながっています。
今後の物流業界に物流テックは必要不可欠
物流は世の中に商品を届けるのにかかせない仕事で、縁の下の力持ちといえる社会インフラです。しかし、深刻な人材不足や宅配便数の急増により、このままいくと対応できなくなると懸念されています。 そこで、IT・IoT・AIなどの最新技術を取り入れた物流テックが注目を集めています。市場規模も拡大すると予想されていますので、スタートアップや新規事業のアイデアを検討してみてはいかがでしょうか。