皆さんは、「選択のパラドックス」をご存じでしょうか?
あまり聞きなれない単語ですが、実は身近にあるものです。
選択のパラドックスとは
選択のパラドックス(the paradox of choice)とは、現代の自由主義の社会においては選択肢が多いほど人は不幸を感じやすくなるという心理作用のこと。 「選択の自由のパラドックス」ともいえます。
2004年にアメリカの心理学者バリー・シュワルツが、著書「The Paladox of Choise(なぜ選ぶたびに後悔するのか)」において発表し、翌年の講演が話題となり広がりました。
欧米社会では従来「選択肢が多いほど人は自由で幸せである」とされてきました。しかし現代社会では、選択肢が多くなると無力感を感じて選ぶのが難しくなり、選択した後も「他の選択肢のほうが良かったのではないか」と後悔が残ってしまうので、満足を得にくいというのです。
選択にはより多くの時間が必要になり、他の有意義な事に費やせたはずの貴重な時間も消費してしまうので、満足度をさげてしまうのです。
つまり、「選択のパラドックス」は近代の多様性や進歩、成長を続ける世界において、選択することが多くなっていることから、不幸に感じることだということです。
例えば、「アノ人はアノ高級バッグを買っている」
だったり、「アノ人はアノ学校に入ってアノ企業に入った」
どちらも、昔であれば、そもそも高級バッグなど輸入されなかったし、ハイレベルな学校に入れるのもごく一部でした。
近代に資本主義経済が発展したことで、貧富の格差が生まれてしまいました。そんな中で、現代化社会を迎え選択の自由化が進んだことで、自分を周りと比べてしまうことが増えています。
選択肢が少なかった頃には期待しなかったことを、選択肢が増えることによって不用意に期待度が高まってしまう一方で、選んだものが期待には届かなかった場合に、満足度が得られないという、パラドックス状態に陥ってしまうのです。結局自由に選べるという状況から、現代社会というのは”劣等感”が生まれやすい環境にあるのです。
選択のパラドックスで不幸になる3つの理由
- 無力感が生まれる(=選ぶのが大変)
- 満足度が下がる(=選択に疑念と後悔が生じる)
- 期待値が下がる(=比較する対象が増える)
ここで、選択のパラドックスによって不幸になる理由と、それぞれについて詳しく解説していきたいと思います。
無力感が生まれる(=選ぶのが大変)
単純に、選択肢が多いと選ぶのが大変になってしまいます。選ぶのが大変だという理由から無力感が生まれてしまうことも少なくありません。
例えば、1995年に行われた実験で立証された「ジャムの法則」では、スーパーマーケットを舞台に「豊富な選択肢は売り上げを上げる」ということを実証する実験をしようとしたのですが、実際は逆で、24種類のジャムを並べた時、6種類のジャムを並べた時の10分の1しか売り上げがなかったといいます。 選択肢が多いというこは、決断疲れを招いてしまうのです。決断自体なんでもなく普段行っている行動だとしても、繰り返し行ううちに疲れが生じてしまうため、無力感に繋がりやすいのです。
満足度が下がる(=選択に疑念と後悔が生じる)
「もしかして選ばなかったあっちのほうが良かったかもしれない・・」
選択肢が多すぎると、自身の決断に自信が持てず疑念と後悔が生じてしまいやすくなります。結果的に満足度が下がってしまうのです。
期待値が下がる(=比較する対象が増える)
選択肢が多いということは、「比較する対象が多い」ということです。
例えば、私はお酒が大好きなので、コンビニで買うこともありますし、スーパーのお酒売り場で購入することもあります。その時の事を思い出してみるとわかりやすいかもしれません。 コンビニは売れ筋商品をピックアップしておいてくれているので、飲みたいお酒を数種類すぐに選ぶことができます。しかし、スーパーのお酒売り場だと、売り場が広い上に購買ターゲット層も幅広い為、たくさんの種類のお酒が並んでいます。すると、ビールにしようか日本酒にしようかワインにしようか、売り場をウロウロしつつ迷ってしまいます。最終的にビールに決めても、特売していた日本酒やワインが気になってしまい、ビールを飲むことが楽しみでなくなってしまうなんてことがありました。まさにこれが同じ現象ではないかと思います。
選択肢が増えると不幸になる原理
まず第一に、”後悔”します。
他の選択肢を選んで成功している人を見ると、嫉妬したり、「あの時、ああしとけば、、、」と、過去を後悔することになります。
最近では、こうした後悔の積み重ねにより強いストレスを重ねてしまい、心の病にかかってしまうことも少なくありません。こうした心の病から衝動的な行動が増え、事件へ至るケースもあります。
一見すると、選択肢はたくさんあるほうがいいように思われますが、実はそのために、新たな社会問題が生まれることもあるのです。
2種類の後悔
「選択のパラドックス」という言葉を自身の著書で世に広めた「シュワルツ」は、主に心理学や経済学などを研究している、カリフォルニア大学の客員教授なのですが、彼は著書において2種類の後悔を述べています。
決定後後悔
選択肢が複数ある中で、選んだ結果、後になって後悔するのが決定後後悔です。英語表記では「postdecision regret」とされています。例えば、昼ご飯の選択肢が複数あるなかで選んだ結果、もっと別のものにしておけばよかった、などと後悔します。
見越し後悔
目の前の選択肢だけでなく、未来の選択肢まで考えすぎて、決断できないのが見越し後悔です。英語表記では「anticipated regret」とされています。例えば、家の購入を考えていた時に、もっといい家が今後出てくると考え続け、決断できず、結局気に入っていた物件を買うことができないなどが挙げられます。
私たちの日常生活の中でも、「やった後悔」と「やらなかった後悔」どちらがいいか?などという話をすることがあります。「やった後悔」は「決定後後悔」、「やらなかった後悔」は「見越し後悔」といえるでしょう。 選択肢が多くなければ、決断も容易になりますし、決断し実行した後に後悔を感じることも少なくなるのではないでしょうか。それでは、選択肢の多い現代社会の中で、「選択のパラドックス」によるマイナスの影響を防ぐ為にはどうしたらよいのでしょうか。
解決策
さて、これまでは選択のパラドックスについて、影響や原理を解説しました。 今回はその解決策について、2つお話をします。
選択肢を3つに絞る
選択のパラドックスから抜け出すための方法はズバリ「選択肢を3択に絞る」です。
たくさんの選択肢がある状況をイメージしてみましょう。
何100種類ものジーンズを前にしてその中から選ぶとなると、失敗は許されません。
その中から、3種類だけに絞ってみるとどうでしょう。
自分の中ではピッタリ来るものだけを選べばいいのです。
逆に選択肢を4つ以上にしてしまうと迷いが生じやすくなるというデータがあるので、どうせ減らすなら3つまで減らさないと意味がありません。
これはどういうことかというと、「決定回避の法則」といって、選択肢が多くなると人は迷いが生じて決断ができなくなってしまい、いつもと同じような行動をしてしまうということです。もう一つは「松竹梅の法則」といって、選択肢を3つ用意した場合に、真ん中が選ばれやすくなるという原理です。ただし、4つ以上の選択肢を用意すると、「選ばない」という選択を取る可能性が高くなります。
では、実際にどうやって選択肢を絞っていけばいいのでしょうか。私たちの日常生活の中に取り入れられるアクションは以下の通りです。
選択肢を3つに絞る簡単アクション
- 休日の予定を3つ固定する
- 買い物などは3択で
- 色や形は3つだけ
- 種類は3択だけ
例えば、具体的なアクションとしては、休日の予定を「読書」「ランチ」「トレーニング」の3つだけにする、お酒売り場で迷ったら、「ビール」「ワイン」「日本酒」の3つから選ぶなどです。
ビジネスでも、相手に提案するときは選択肢を3つに絞って回答率を上げるという、松竹梅の理論に基づいた手法があります。これを日常生活に取り入れることによって決断しやすくなるのです。
ミニマリストになる
先ほどの「3択から選ぶ」ことも有効ですが、究極の方法は、ミニマリストになって「決定する意思を省く」ということです。
ミニマリストとは、近代の流行でもある、「物はなるべく持たない」という理念を元に生活し、最低限の衣食住を確保するスタイルをしている人です。
ミニマリストになれば、そもそも選択肢を最低限に絞ることが出来ますし、選択肢を作らないようにすることも出来ます。ミニマリストとして生活している人の多くは、沢山の選択肢に迷わないで済むように生活している人たちです。
ミニマリストになること、物を減らすことで幸福度が上がると昨今言われているのは、選択のパラドックスを防ぐ事ができるからともいえます。
ミニマリストになって、本当に必要な物だけを選ぶという手法を取ってみてはいかがでしょう。次にミニマリストについて詳しく解説していきます。
ミニマリストの鉄則
ミニマリストは、基本的に「物を持たない」という理念で活動している人が多いです。
ミニマル、つまり小さくするのは大きく分けて「物×食×時間」です。
ここからは、ミニマリズムをはじめる人でも分かりやすい鉄則を、3つだけ紹介します。
持ちものはシンプルに
少し前に流行った「断捨離」という言葉をご存じでしょうか。
自分に必要でないものは捨て、必要だと判断したものは大切に使う。
生活品も、最低限まで減らし、その分買うものも減らします。 例を挙げてみると、着るものであれば数年前に流行ったデザインの服は、今後また着るかもしれないし、着ないかもしれません。お買い得になっていたので衝動買いしたものの、ほとんど履いていない靴はどうでしょう。一度履いてはみたけど、履きごこちがいまいちだと分かり、クローゼットの中でほこりをかぶっていたりはしませんか?ワードローブはできるだけシンプルにして、時を経ても廃れることのないデザインや素材のものがお勧めです。
食生活もシンプルがいい
ミニマリストは、物だけでなく”食”もミニマルにします。
現代ではおいしいファストフードや、気軽に済ませられるコンビニ、さらに何でも揃っているスーパーなど、様々な所に誘惑があり、その分だけ選択が増えてしまうことになります。
野菜中心のメニューで、できれば生野菜か生に近いくらいに調理した野菜をシンプルに味付け。塩よりも、バルサミコ酢やワインビネガーなどの各種の酢と、オリーブオイルなどのヘルシーオイルで味つけをするのがベストです。
自分にとって大切なものに時間をかける
ミニマリストは、ものだけでなく時間もミニマルに使います。
例えば、スマホゲームやSNSをだらだら見てしまって気づいたら時間が経っていたなんてことはありませんか?それこそ選択のパラドックスです。たくさんあるスマホアプリから気に入ったゲームを選ぶ、たくさんのコンテンツから見たいものを選ぶ、たくさんのアカウントの中から見たい投稿を選ぶ。でも、見終わった後には満足感が得られず、またスマホを手にしてしまう。これこそ時間の無駄ですよね。
前述したように、休日の過ごし方を3つに絞ることで、スマホをだらだら見て時間を無駄にすることを防げますし、趣味や大切な人、大切にしていることに時間を使うことで、満足感や達成感を得ることが出来ますし、人生をアップデートしていくことにもできます。
私の場合は読書とトレーニングが趣味なので、休日の過ごし方は「読書」「ランチ」とレーニング」の3つと決めているのですが、読書では今現在興味のあることや学びたいことに関係する本を読みますし、ランチでは自分と価値観の合う友人と和やかな時間を過ごすようにしています。トレーニングをすることで体力を付け、体調を整えることが出来ます。 自分にとって本当に大切なものだけを選び大切にしていくミニマリストになれば、選択のパラドックスによるネガティブな影響を受けなくても良くなりそうですね。皆さんもぜひ一度実践してみてください。
まとめ
選択のパラドックスは多くの選択肢がある場合に、選ぶことが難しくなり、不幸になることを指します。このパラドックスによって、無力感が生まれたり、疑念と後悔が生じたり、期待値が下がるといった3つの理由が挙げられます。
しかし、選択肢を3つに絞ることやミニマリストになることで、選びやすくなり、選択の負担を減らせる。選択のパラドックスを回避するために、シンプルに生きることが大切であるということが言えます。