情緒的価値や機能的価値と聞くと以下のような疑問を持ちませんか?
「情緒的価値と機能的価値の違いは?」
「情緒的価値はなぜ大事?」
「情緒的価値はどうすれば見い出せる?」
この記事では「情緒的価値や機能的価値の特徴」や「情緒的価値の見い出し方」について詳しく解説しています。
マーケティングの仕方1つでモノの売れ行きが変わってしまうので、情緒的価値と機能的価値の違いを理解したブランディングが重要です。
顧客や時代のニーズを分析せずに、独りよがりに商品を売り込めば、きっと失敗に終わるでしょう。しかし徹底したニーズの分析や新しい価値の創出に成功し、話題になれば大きな成功を収めやすい時代でもあります。
記事の後半では、情緒的価値の創出に成功した4つの事例も紹介していますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
情緒的価値とは
情緒的価値とは、購入する顧客が商品の所有や使用から感じる価値のことです。
例えば「レクサス」や「ルイヴィトン」などのブランドは、以下のようにイメージするのではないでしょうか?
- 高級感がある
- カッコいい
- おしゃれ
- 洗練されている
性能や品質の高さも魅力的ですが、それ以上にブランドに魅力を感じる人が多いはずです。
このように情緒的価値には、数値化できない魅力や感情に訴えかける魅力があります。
情緒的価値による訴求は、他社との差別化やブランディングに役立ちます。自社ブランドのファンが増えれば、自然なリピート購入も増えるため、長期的な売上向上の実現も可能です。
人々の購買行動に密接に関係している情緒的価値は、マーケティングにおいて重要な意味を持つと言えるでしょう。
機能的価値とは
機能的価値とは購入する顧客が、商品の性能や品質から感じる価値のことです。
機能的価値は数値化できるものが多くなっています。例にすると以下のとおりです。
- CPUの性能
- メモリの容量
- ディスプレイの画素数
機能的価値は、顧客に選んでもらうために重要な価値です。しかし性能や品質がいい商品はすでに世に溢れているため、最低限必要な価値ともいえます。したがって今後は機能的価値だけで販売競争をするのは、厳しくなるでしょう。
機能的価値の弱点
便利なものが溢れる現代において、機能的価値だけしか持たない商品はいずれ売れなくなります。なぜなら世の人々の価値観や購買行動が変わってきたからです。
マーケティングの権威であるフィリップ・コトラー教授の「マーケティング3.0」によると、価値観や購買行動は以下のように変化してきました。
- ものが足りない時代:たくさんの製品を買う
- ものが増えた時代:品質がよく便利なものを買う
- ものが溢れる時代:ストーリーや理念があるものを買う
高品質な類似商品が増えたため、機能的価値だけではなかなか差別化できません。つまり売り手は機能的価値の弱点を理解し克服する必要があります。
ここでは機能的価値の弱点を2つ紹介するので、しっかりとチェックしてください。
マネされやすい
機能的価値はマネされてしまう可能性が高いのが弱点です。理由は価値の中身が、広さや速さなどの物理的なものが中心だからです。
どの企業も性能や品質の向上には最大限努めています。新しい機能を作り出しても、それが世間に広まれば各社がすぐに開発して追いつきます。例えばダイソンが開発して有名になった「サイクロン式の掃除機」は海外のものですが、今や国産メーカーでも、すっかりラインナップの一部になっていますよね。
逆に苦労して開発した国産の技術も、あっという間に世界に広まり追い越される可能性があります。つまり自社だけの機能的価値は、ほとんど守れなくなったと考えてよいでしょう。
価格競争になりやすい
機能的価値しかない商品は、最終的に価格競争に巻き込まれてしまいます。なぜかというと機能や品質が類似してくることで、希少価値が薄れてコモディティ化(一般化)されるからです。
先述したように、「速い・強い・長持ちする」という価値はいずれ追いつかれます。その結果として、最終的にはコスパで選んでもらう必要が出てくるのです。
例えば薄型の4K液晶テレビは、各社が製造販売に参入し普及するにつれて価格が下落しています。価格競争が行われたことは明らかでしょう。
参照URL:3年前に比べ、7万円も安くなった4K液晶テレビ、上位4社が9割占める
また消費者にとっても4K画質は当たり前になり、高い金額を払ってでも購入したい意欲がなくなったことも、価格の下落につながっています。
情緒的価値の見い出し方
人々の価値観や時代の変化にともない、機能的価値に加えて情緒的価値が必要になってきていることは間違いありません。ここでは、ブランディングを成功させる情緒的価値の見出し方を3つ説明します。
機能的価値を見直す
商品に情緒的価値を付加する前に、まずは機能的価値を見直してください。数ある商品の中から候補に挙がるためには、できる限りの機能的価値を保有する必要があります。
そもそも情緒的価値は機能的価値の強みから見出されることが多く、2つをバラバラに考えることはありません。どれだけ商品の理念やストーリーがよくても、機能的に不足していることはアピールできませんよね。品質が悪ければ、むしろ顧客に悪い印象を与えかねません。
機能的価値があってこその情緒的価値です。顧客の心に訴求するポイントを固めるのに、機能的価値を見直すことは重要です。競合と差別化できる強みと弱みを見落とさないように、企画する人や製造する人だけでなく第3者の意見も取り入れて、足りない部分があれば強化しましょう。
ペルソナ(想定顧客)を設定する
情緒的価値を見出すためには、あなたの商品を必要とするペルソナを設定しましょう。なぜなら満たすべきニーズや付加するべき価値を、できるだけリアルに考える必要があるからです。
例えば以下のような項目を設定して、あなたの商品にリーチする人を考えてください。売りたい人や貢献できる人を具体的にすることで、心に刺さる訴求ができます。
- 年齢
- 性別
- 仕事
- 家族構成
- 居住地
自社の商品によって機能的価値に対するニーズが満たされた後に、ペルソナが何を求めるかを分析すれば潜在的なニーズを見出すことも可能です。
ペルソナが「ワクワクしている姿」や「感動している姿」をイメージできれば、ファンの獲得やブランドの確立につながる情緒的価値に近づいているでしょう。
既存顧客のデータや意見をチェックする
自社の商品に対して、すでにファンを抱えているブランドなら顧客データや意見から情緒的価値を見出すことも可能です。集めるデータや意見には、以下のような項目があります。
- 購入者の性別はどうであるか
- どんな年齢層に購入されているか
- 自社や商品の何に魅力を感じているか
- 自社や商品にどんなイメージがあるか
- 商品を購入した動機は何か
- どのようなクレームがあったか
データを集める際は、Webサイトや独自のアプリケーションを利用するといいでしょう。顧客データの収集が自然に実行できるからです。集めた顧客データをもとに、機能的価値の見直しや効果的な情緒的価値の訴求に役立ちます。
したがってデジタルの力を利用すれば、既存商品の訴求に対する効果検証や軌道修正も実施しやすくなるでしょう。
情緒的価値の創出に成功した事例
情緒的価値を創出するアプローチは、1つではありません。また意図して創出した事例もあれば、個人や企業の理念が人の心を動かす事例もあります。ここでは、情緒的価値を創出して高めてきた4つの事例を見ていきましょう。
Apple(アップル)【iPhoneの登場】
機能的価値で劣らないスマホが溢れるようになった今でも、iPhoneの最新機種には人が殺到し根強いファンを生んでいます。その理由は、iPhoneには他のスマホと異なる情緒的価値があるからです。
iPhoneが登場した2007年はガラケーが主流。機能の高さだけで比較すれば、iPhoneはガラケーに及ばない点もありました。しかし無駄なボタンを一切なくし画面にタッチする入力方式を採用したiPhoneは、人々に鮮烈な印象を与えます。
所有するだけで満足感が得られる「先進性」や「デザイン性」が多くの若者を魅了したのです。そして今もなおiPhoneの所有には、ステータスを感じる人が多くいることで他のスマホとは意識的に区別されます。
iPhoneが与える強いイメージや感動的なユーザー体験が、情緒的価値となって受け継がれている事例です。
HONDA(ホンダ)【初代ステップワゴン】
1996年に登場した初代ステップワゴンは、当時のホンダ車では異例の大ヒットを記録します。なぜなら初代ステップワゴンには、ファミリーカーの概念を変える影響力があったからです。
当時のステップワゴンはミニバンとして最大クラスの居住性を誇り、機能的な魅力でも多くの人を惹きつけました。しかし機能面だけではなく、新しいコンセプトが多くの人々を魅了した結果として異例の大ヒットとなっています。
その象徴がCMで利用した、「こどもといっしょにどこいこう」というキャッチフレーズです。多くの人は、このキャッチフレーズから以下のようなことを想起しました。
- 広々したミニバンに乗っている家族
- こどもと一緒に出かける休日
- 家族の笑顔や幸せを感じている自分
つまりモノではなく、体験への訴求が見事にハマった事例でしょう。
結果として「ファミリーカーといえばセダン」という時代に、ステップワゴンが持つコンセプトやストーリー性に心打たれる人が多く現れました。そして今では「ファミリーカーといえばミニバン」が定番になっています。
Patagonia(パタゴニア)【企業の理念】
ファッションやアウトドア製品で有名な、パタゴニアをご存知でしょうか。1973年に創業され、世界中に50店舗以上を展開するブランドです。創業からずっと「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という理念のもとに、自然保護活動に取り組んできました。
また生産された製品の約半分が廃棄されるアパレル業界の現状に対して、消費のあり方を世に問い続けています。その姿勢から「高品質な製品を長く利用してほしい」という想いを製品にも反映し、自社製品のリサイクルや修理対応も行ってきました。
パタゴニアの事業は「地球や人類の課題解決」であり、ビジネスとしても成功しています。創業者が2022年にトラストや非営利団体に譲渡したパタゴニアの全ての株式は、総額で約30億ドル(約4300億円)です。
パタゴニアの崇高な理想は世界中のアウトドアファンだけではなく、環境や人権の問題に興味を持つ人々からも人気を集めました。企業の理念がブランドになった事例と言えるでしょう。
IKEA(イケア)【体験やコンセプトで売る】
世界的な企業として知られるイケアは、商品のレイアウトが他の家具屋と異なっています。
従来の家具屋では同じ種類の家具が同じコーナーに並べてあるのが普通でした。しかしイケアの店内は広大な店舗にモデルルームがいくつもあり、部屋での見え方が一目瞭然になっています。
訪れた顧客に対して売り込んでいるのは、さまざまな家具というよりも「世界観」や「ライフスタイル」であるとも言えるでしょう。
さらにイケアの店内では、本家スウェーデンの食文化に触れることも可能です。店から出たあとも、家で家具を組み立てる楽しみが残されています。
これまでの家具屋にはなかった、エンターテイメントを体験するに近しい価値を、顧客に提供することでブランディングに成功した事例です。
機能的価値に情緒的価値を加えたブランディングが重要
まとめ
- 情緒的価値とは商品の保有や使用した体験に見出される価値である
- 機能的価値とは商品の性能や品質に見出される価値である
- 顧客の心をつかむには機能的価値だけでなく情緒的価値も重要である
商品の販売促進が機能的価値のアピールだけになっていたら危険です。「いいもの」が溢れる今の時代において、機能的価値だけでは競争力が失われるからです。
したがって機能的価値だけでなく、情緒的価値を訴求することが大事です。心に響く情緒的価値を創出して、顧客をファンにすることで長期的な売上向上にもつながります。
店舗のレイアウトや広告、SNSなどの多種多様な方法を使って、あなたの顧客に刺さるブランディングを行いましょう。