核融合発電は次世代のクリーンな発電方法として注目を集めており、多くの国や企業で開発が進められています。しかし、「核」を使った発電と聞くと原子力発電を連想してしまい、「放射能が怖そう」や「暴走したら怖い」と感じている方もいるかもしれません。
核融合エネルギーは安全性の高い技術で、仕組み上暴走することはなく、放射能による影響も非常に軽微と考えられています。次世代の電力事業について理解を深めるためにも、本記事では核融合エネルギーのメリット・デメリットや危険性、核分裂との違いをわかりやすく紹介します。
核融合エネルギーとは?燃料1gで石油8トンのエネルギー
引用:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構「誰でも分かる核融合のしくみ」
核融合エネルギーとは、軽い原子核をくっつけたときに発生するエネルギーのことです。研究が進んでいるのは「重水素(D)」と「三重水素(T)」を融合させることで、エネルギーを生み出す技術です。融合後はヘリウムと中性子になります。つまり、軽い原子核を融合させて重い原子核を生み出す際に、発生するエネルギーが核融合エネルギーです。
補足として、太陽が明るく輝いているのは、この核融合反応により大きなエネルギーを放出しているためです。太陽での核融合エネルギーを原子力発電に換算すると、100万kW級が2億基分にも相当します。これほど多くのエネルギーを放出するのが核融合エネルギーの特徴です。燃料1gの核融合エネルギーは、なんと石油8トンに相当します。
重水素・三重水素とは?
核融合エネルギーの燃料として使われる重水素・三重水素は、水素の同位元素です。中性子がないと水素、1個だと重水素、2個だと三重水素となります。重水素・三重水素は海水から抽出できるため、ほぼ無尽蔵といえます。
核融合と核分裂の違い
核融合エネルギーを考えるうえで、比較されがちなのは核分裂エネルギーです。そこで、核融合発電と原子力発電にどのような違いがあるかについて解説します。
原子力発電の仕組みとデメリット
原子力発電は重い原子核の分裂時に発生するエネルギーを利用しています。燃料として使われるウラン235は、水素の200倍以上の重さがあるほどです。核分裂の特徴は、反応により発生した中性子により、次から次へと核分裂を発生させてしまうことです。
そのため、原子力発電では制御棒と呼ばれる中性子を遮断する装置により、核分裂を制御しなければなりません。もしも、ブレーキの役割を果たす制御ができないと、過剰反応が起こり暴走してしまいます。
原子力発電のデメリットは使用済み核燃料です。高性能放射能レベルの核廃棄物で、天然ウランほどの放射能になるには約10万年かかるといわれています。また国内では、燃料であるウランのほとんどを輸入に頼っているのも、原子力発電のデメリットといえます。
核融合発電と原子力発電の比較
核融合発電と原子力発電の違いについて、以下の表にまとめました。
項目 | 核融合発電 | 原子力発電 |
---|---|---|
燃料 | 重水素・三重水素 | ウラン2355・ウラン238 |
燃料の貯蔵量 | 無尽蔵 | 約85年分 |
エネルギー | 核融合エネルギー | 核分裂エネルギー |
エネルギー量(燃料1gあたり) | 石油8トン | 石油1.8トン |
放射性廃棄物の管理年数 | 100年 | 10万年 |
このように、同じ核からエネルギーを取り出す方法ですが、エネルギー量や危険性など大きく異なっています。
核融合エネルギーのメリット
核融合エネルギーが次世代のクリーンエネルギーとして注目される理由は、以下のメリットにあります。
- 安全性が高い
- エネルギー量が多い
- 燃料の貯蔵量が無尽蔵
- 放射性廃棄物の管理期間が短い
このように原子力発電のデメリットをカバーできるのが核融合発電です。ここからは各メリットについて詳しく紹介します。
安全性が高い
核融合は暴走するリスクがないため、安全性の高さがメリットです。なぜなら核融合を起こすためには、約1億度という非常に高温の中で燃料をプラズマ化しなければならないためです。仮に核融合中に装置が故障しても、この条件が保てないため自然に反応が止まってしまいます。制御できなくなると反応が加速してしまう原子力発電とは決定的に違うポイントです。
エネルギー量が多い
燃料1gから石油8トンのエネルギーを取り出せるほど、エネルギー量の多さがメリットです。原子力発電でも燃料1gあたり石油1.8トンなので、4倍以上も多いエネルギーを生み出せることになります。
燃料の貯蔵量が無尽蔵
燃料となる重水素や三重水素は豊富にあるため、資源枯渇の心配がありません。またウランや石炭を輸入に頼っている我が国にとっても、燃料を自前で調達できるのはメリットといえるでしょう。
放射性廃棄物の管理期間が短い
核融合エネルギーの放射性廃棄物は放射線を浴びる炉壁です。しかし、高レベル廃棄物に分類されるような高い放射線がでるわけではなく、100年で放射線量が100万分の1に減少します。原子力発電の10万年と比較すると、大幅に短い期間で済むのがメリットです。
核融合エネルギーのデメリット
核融合エネルギーはメリットばかりではなくデメリットもあります。まずは核融合発電の建設に、巨額な費用がかかることです。例えば、日米欧などにより進められている国際熱核融合実験炉(ITER)の建設費は数兆円にも上ります。実験段階ですでに巨額の資金を必要としていますが、実用化にはまだまだ資金がかかります。
また高温状態でプラズマを安定させ、核融合し続ける技術の開発が難しいのもデメリットです。1億度を超えるような高温状態のプラズマを制御する技術の開発は難しく、安定してエネルギーを取り出せる段階にまでは至っていません。
核融合エネルギーの国内企業・機関の取り組み
核融合エネルギーは現在、「磁場」核融合と「レーザー」核融合の2種類で主に研究が進められています。国内で研究を進めている機関・企業は以下のとおりです。
「磁場」核融合の代表例はITER
ITERは「国際熱核融合実験炉」のことで、日米欧などが中心となり2007年から発足しているプロジェクトです。現時点では、2025年の運転開始を目指してすすめられている状態です。
ただしITERは科学技術的実証のみに利用され、実用化されるまでには、「発電実証プラント」の設計・実験などが必要となります。そのため、ITERはまだまだ実験段階の核融合エネルギーなのです。
資金調達に成功したスタートアップ「京都フュージョニアリング」
引用:京都フュージョニアリング
京都フュージョニアリングは2019年に設立した京都大学発のスタートアップ企業です。京都大学の最先端技術を生かして、磁場核融合の実現に向けて取り組んでいます。2023年には総額105億円の資金調達に成功するなど、開発に向けた動きが活発で、注目を集めています。
レーザー核融合商用炉の実用化を目指す「EX-Fusion」
引用:EX-Fusion
EX-Fusionは大阪大学発のスタートアップ企業で、2035年までにレーザー核融合商用炉の実現を目指しています。磁場核融合に注目が集まるなか、レーザー核融合に注目した珍しい取り組みをしている企業です。
まとめ:核融合エネルギーは次世代のクリーンエネルギー
核融合エネルギーは原子力発電と比較すると、安全性が高く、燃料も豊富にあることから持続可能な発展のために必要です。そのため各国で大規模なプロジェクトが立ち上がっており、開発に巨額な費用が投入されています。ほかにも複数のスタートアップ企業が技術開発を進めているため、各機関・企業の開発状況の進展に注目が集まっています。