量子コンピュータとは?基礎知識や実用化したら期待されることを解説

「量子コンピュータ」は、各国・企業が開発に乗り出している次世代コンピュータです。

日本でも理化学研究所が開発に成功するなど、実用化に向けた動きが活発になっています。そのためニュースで、「量子コンピュータ」の話題を耳にしたことのある方も少なくないでしょう。

しかし「難しそう」や「何がすごいの?」、「実用化したら生活がどのように変わるの?」と疑問に思いませんか。

そこで本記事では、量子コンピュータの基礎知識、実用化したら期待されることをわかりやすく解説します。

量子コンピュータとは?1万年から200秒に

量子コンピュータとは、量子の特性である「重ね合わせ」や「もつれ」を生かして、同時にたくさんの処理ができる次世代コンピュータです。一方、従来のコンピュータは量子力学が登場するまでを古典力学と呼ぶことから、古典コンピュータとも呼びます。

昨今、量子コンピュータの開発・実用化に向けた動きが活発で、主だった動きは以下のとおりです。

2019年10月23日:Googleが量子コンピュータにより、1万年かかる計算を200秒で処理できたことを発表

2020年8月14日:AmazonがAWSで量子コンピューティングを開始

2023年3月27日:理化学研究所が「量子計算クラウドサービス」を開始

このように、世界だけではなく国内でも量子コンピュータの実用化に向けた動きが進んでいます。

参考:nature「Quantum supremacy using a programmable superconducting processor

参考:Amazon「Amazon Braket を介して AWS で量子コンピューティングを利用可能

参考:理化学研究所「量子コンピュータを利用できる「量子計算クラウドサービス」開始

量子とは?

「そもそも量子って何?」と思う方もいるでしょう。

量子とは、原子・電子・中性子・陽子などのように、原子以下の小さな物質やエネルギーのことです。量子ほどの小ささになると、巨視的な物理法則が適用できなくなり、常識では考えられない動きをします。具体的には以下の2つです。

  • 波と粒子の性質を持つ

量子は波と粒子の性質を持っています。同じように双方の性質を持つのは光です。粒子でありながら、光と同様の特性を持つため、長年研究者を悩ませている問題でもあります。

  • 同時に同時に複数の場所に存在するという重ね合わせ状態をとることができる複数の場所に存在する

量子は、「同時に複数の場所に存在できるという重ね合わせ状態をとることができる」という特徴があります。この特徴を測定できる実験は、「2重スリット実験」です。この実験で、2重スリットに量子を1個ずつ放出すると干渉縞が現れます。つまり、1個しか放出していないのに、2重スリットを複数の量子が同時にすり抜けた結果と同じになるのです。

この実験の不思議な点は、このどちらのスリットを通ったのかを確認した途端に、干渉縞が消えて1個の粒子として振る舞うことです。

このような、不思議な動きをする量子の特性を生かしたのが量子コンピュータとなります。

量子コンピュータの種類

量子コンピュータは大きく分類すると2つの種類があります。

  • 量子ゲート方式

量子ゲート方式は、量子の動き・組み合わせを用いた電子回路で計算する方法です。古典コンピュータの計算回路を量子回路に置き換えたのが量子ゲート方式です。理化学研究所では、量子ゲート方式の超伝導量子コンピュータの開発が進められています。

  • 量子アニーリング方式

量子アニーリング方式は量子焼きなまし法とも呼ばれ、金属の焼きなましのようにして、最小エネルギー状態を探す方法です。組み合わせ問題や最適化問題に特化した量子コンピュータとなります。NECが量子アニーリング方式の開発に力をいれており、2022年に疑似量子アニーリングサービスの提供を開始しています。

参考:NEC「NEC、疑似量子アニーリングサービスを業界最安値で提供開始

量子コンピュータは何がすごいのか

「量子コンピュータは古典コンピュータの何万倍もの処理能力で、すべての計算が瞬時に終わるようになるのでは?」と考えている方もいるでしょう。

しかし、単純な計算であれば量子コンピュータ・古典コンピュータの処理速度に大きな違いがないこともあります。なぜなら、量子コンピュータは複数の組み合わせの計算を同時にすることで、計算時間を減らす仕組みだからです。

古典コンピュータと量子コンピュータの違いは、ビットと量子ビットにあります。古典コンピュータの1ビットは「0」か「1」のどちらかにしか値をとれません。しかし、量子ビットは「0」と「1」の両方の値を持ちながら計算処理ができます。

つまり、1ビットであれば、0と1の双方を計算する場合2回の処理が必要です。しかし、量子ビットは1度に双方の値を持てるため、1回の処理で済むのです。4ビットであれば16回の処理が必要ですが、4量子ビットであれば1回の処理で済みます。32ビットともなると4,294,967,296回にもなります。

つまり、量子コンピュータのすごいポイントは、古典コンピュータのビット数が増えるほどに処理数も増える欠点を克服できるところです。

量子コンピュータが実現したら期待されていること

量子コンピュータが実現したら期待されていることは、古典コンピュータでは時間がかかりすぎる組み合わせ最適化問題の解決や創薬の開発です。

組み合わせ最適化問題は、古典コンピュータで対応できなくなる典型的な問題となります。なぜなら、組み合わせる数が増えるほど、最適化するための計算数が指数関数的に増える「組み合わせ爆発」を起こしてしまうためです。

例えば1人のセールスマンが複数の都市を回り、スタート地点に戻ってくる際の最短ルートを求める巡回セールスマン問題です。単純な問題ですが、訪問先が増えるほどに計算数が膨大になってしまうため、スーパーコンピュータでも計算できなくなります。このような組み合わせ爆発を起こすような問題であっても一瞬で解けるのが電子コンピュータです。

この計算能力を使うことで期待されている分野は、自動運転や創薬です。

  • 自動運転

自動運転では、行き先までのルートを自動で選択して制御します。量子コンピュータがあれば、数多くの車のルートを最適化しながら、制御できるようになるでしょう。また混雑しているルートの回避だけではなく、複数の車を制御することで、渋滞発生の抑制といったこともできるかもしれません。

  • 創薬

量子コンピュータを活用することで、化合物を探すスピードが飛躍的に向上し、これまで以上に素早い新薬開発ができるでしょう。

量子コンピュータの課題

すでに量子コンピュータのクラウドサービスが登場しているため、「すでに実用化されている」と感じている方もいるでしょう。しかし、量子コンピュータにはまだまだ課題があり、期待されているほどの計算能力の獲得には至っていません。例えば、量子ゲート式では性能を発揮するために100万量子ビットが必要といわれていますが、現状は400量子ビットです。ほかにも熱流入問題やノイズの問題などがあります。

まとめ:開発状況に注目が集まる量子コンピュータ

量子コンピュータは実用化に向けて各国・企業が開発を推進しています。日本でもIBMや理化学研究所などが開発を進め、クラウドサービスの提供を実現しているほどです。 また量子コンピュータのすごさは、古典コンピュータでは時間がかかる処理を、一瞬で処理できる可能性を秘めていることです。そのため、実現できれば様々な分野に影響を及ぼすと考えられています。今後の開発状況に目が離せないといっても過言ではないでしょう。

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