HACCP(ハサップ)とは?概要や導入状況をわかりやすく解説

コロナの自粛生活や規制が解除されたことで、飲食店が流行前の活気を取り戻しつつあります。そのようななか、飲食店などの食品に関わるビジネスへの参入を検討している方もいるでしょう。

食品産業に参入する前に必ず把握しておくべきなのは、HACCP(ハサップ)です。2021年に食品に関わる事業者すべてに完全義務化されたためです。

本記事では食品に関わるビジネスを立ち上げる予定の方に向けて、HACCPの概要やメリットをわかりやすく解説します。

HACCP(ハサップ)とは

HACCP(ハサップ)とは、1971年、アメリカが宇宙開発のために提唱した食品の衛生管理手法です。以下の5つの頭文字から名前が付けられています。

H:Hazard(危害)

A:Analysis(分析)

C:Critical(重要)

C:Control(管理)

P:Point(点)

具体的にHACCPは、「HA(危害要因分析)」と「CCP(重要管理点)」の2つの考え方を組み合わせることで、衛生管理を徹底する手法です。

・HA(危害要因分析)

危害要因とは、細菌や微生物、異物、有害物質などの人に危害を与える可能性のあるものです。危害要因を分析し、消費者に危害がでない管理方法を明確化します。

・CCP(重要管理点)

CCPは加熱・冷却・包装の工程の際に、原材料などに含まれる危害要因を危害のない量まで減少・削減する管理手法です。

HACCPを導入した事業者では、この2つの考え方により細分化した工程ごとのリスク管理を行っています。細分化しているので、もし食品事故が発生しても、どの工程に原因があるのかを迅速に突き止められるのが特徴です。

HACCPの義務化

日本では2020年6月に食品衛生法が改正され、2021年6月にHACCPの導入・運用が完全義務化されました。HACCP制度の対象は、食品を取り扱うすべての事業者ですが、一部対象外となる事業者もいます。対象外となる条件は以下のとおりです。

  • 農業および水産業における食品の採取業
  • 公衆衛生に与える影響が少ない以下の営業
  1. 食品または添加物の輸入業
  2. 食品または添加物の貯蔵・運搬の営業
  3. 常温で長期間保存しても、品質の変化による危害発生のおそれがない包装食品の販売業
  4. 器具容器包装の輸入・販売業
  • 1回の提供食数が20食程度未満の学校や病院などの営業ではない集団給食施設

なお事業者の規模や事業内容により、管理基準に差があります。以下のように小規模な営業者に該当する場合は、HACCPの簡略化されたアプローチによる衛生管理で済みます。

出典:厚生労働省「HACCP(ハサップ)

小規模な営業者等とは

HACCP制度で、小規模な営業者等と認められる事業者は以下のとおりです。

・食品を製造・加工する営業者で、かつ併設・隣接した店舗で製造した食品の大部分を小売販売する事業者

・喫茶店や飲食店を営業する事業者、その他の食品を調理する営業者

・容器包装に入れるか包まれた食品のみを貯蔵や運搬、販売する事業者

・商品を分割して容器包装に入れたり、容器包装で包んだりして小売販売する事業者

・食品の製造や加工、貯蔵、販売のいずれかの営業を行う事業者のうち、食品を取り扱う従事者数が50人未満の事業者

参考:厚生労働省「小規模な営業者等

つまり日本のHACCPの制度では、小規模な事業者に対しては緩やかな基準による規制を適用し、大規模な事業者に対しては厳格な衛生管理を求めています。

HACCPが義務化された背景

HACCPが義務化された背景は、諸外国の取り組みから遅れていたためです。HACCPは食品の衛生管理の国際基準です。具体的にアメリカ・カナダ・EU・韓国・オーストラリアでは、10年以上前にすでに義務化されています。

日本のHACCPの義務化が遅れていることは、食品の輸出が不利になるという懸念がありました。そのため、国際基準のHACCPを義務化することで、食品の輸入・輸出がより活発になると期待されています。

HACCPの7原則12手順とは

HACCP制度のガイドラインを定めているのはコーデックス委員会(国際食品規格委員会)です。コーデックス委員会とは、1963年に国際連合食料農業機関と世界保健機関により設置された政府間機関です。

そのコーデックス委員会が定めたガイドラインには、HACCPの7原則12手順が示されています。HACCPの7原則12手順は以下のとおりです。

手順1 HACCPチームの編成
手順2 製品説明書の作成
手順3 製品の用途や対象者の確認
手順4 製造工程一覧図の作成
手順5 製造工程一覧図の現場確認
手順6原則1HA(危険要因分析)の実施
手順7原則2CCP(重要管理点)の決定
手順8原則3CL(管理基準)の設定
手順9原則4モニタリング方法の設定
手順10原則5改善措置の設定
手順11原則6検証方法の設定
手順12原則7記録・保存方法の設定

手順1~5までが事前準備で、HACCPの核心となるのは手順6~12、原則1~7となります。

HACCPのメリット・デメリット

HACCPを事業者が導入するメリット・デメリットの一覧は以下のとおりです。

メリットデメリット
・食品の安全性を確保できる ・従業員の衛生管理に対する意識が向上する ・トラブルを未然に防げる・手間やコストがかかる ・リスクがゼロになるわけではない

HACCPの各メリット・デメリットについて理解を深めましょう。

メリット①食品の安全を確保できる

HACCPを導入するメリットは、事業者が取り扱う食品の安全・安心を高められることです。食品の安全性や品質の高さをアピールポイントにすることで、販路拡大も考えられます。また品質のばらつきがなくなり、取引先や消費者からの信頼にもつながるでしょう。

メリット②従業員の衛生管理に対する意識が向上する

HACCPのメリットは、従業員の衛生管理に対する意識が向上する点です。HACCP手順1では、事業者でHACCPのチームの編成を求めています。専門チームを中心に衛生管理に取り組むことで、事業者全体の意識を高められるでしょう。。

メリット③トラブルを未然に防げる

食品の事業者でありがちなトラブルは、危害要因が混入することによるクレームや事故です。例えば異物混入や食中毒の発生です。HACCPで危害要因をリスクのない範囲まで取り除くことで、このようなトラブルを未然に防げます。

危害要因による事故やクレームは社員のモチベーションの低下や事業の経営悪化、取引先・消費者からの信頼失墜といったリスクにつながります。このようなリスクを低減できるのも、HACCPを導入するメリットといえるでしょう。

デメリット①手間やコストがかかる

HACCPはメリットばかりではなく、デメリットもあります。

1つ目のデメリットは手間やコストがかかることです。HACCPでは衛生管理計画や手順書の作成、記録の保存や内容の見直しなど、複数の工程があります。これらを実施するには人員を割く必要があるため、手間やコストがかかります。

デメリット②リスクがゼロになるわけではない

2つ目のデメリットは、HACCPを導入してもリスクがゼロになるわけではないことです。ある程度のリスクが発生する可能性があることから、リスクやトラブルの発生に備えて迅速に対応できる体制を整えることも大切です。

国内におけるHACCPの導入状況

公益社団法人日本食品衛生協会の「令和4年度 食品衛生法改正事項実態把握等事業 HACCPの実施・導入状況等調査報告書」によると、7割以上の事業者が導入したと回答しました。しかし、同調査で「導入に向けて準備中」と回答した事業者は22.6%で、すべての事業者が導入を達成していないことがわかります。

HACCPの導入違反には、食品衛生法の違反として罰則を受けるリスクがあります。導入が済んでいない事業者は、早急な対応が必要といえるでしょう。

食品産業に参入するならHACCPを押さえよう

これから新たに食品産業に挑戦しようと考えている企業も多いでしょう。2021年にHACCPは完全義務化されており、導入違反には罰則が科せられる可能性もあります。そのようなリスクを避けるために、参入前にHACCPの概要や手順について押さえておきましょう。