オンボーディングとは
「オン・ボーディング(on-boarding)」を直訳すると、「船や飛行機に乗っている」という意味になります。
「on-board」から派生した言葉で、 本来は船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に対しての必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのことを指します。
オン・ボーディングは、新卒や中途の新入社員が早期に活躍できるように、一律に行われる研修とは別に、個々が業務で必要となる知識や技術を提供したり、会社やチームにいち早くなじめるようサポートしたりといった、一連の取り組みを指します。
このプログラムを実施する目的は、オンボーディングプログラムの目指すところは、新しく組織に入ってきた人が、元々持っていた価値観や文化、知識やスキル、行動パターンを組織に「加える」ことで、その組織の多様性を広げることです。
まとめると、オンボーディングとは、新たにサービスを導入した人や新たに組織に参加した人などに対して早く慣れることができるようにサポートすることです。
オンボーディングのメリット
ここでは、企業側からの視点でオンボーディングを実施するメリットを3つ解説します。
コストの削減
企業が従業員1人にかけるコストは年々増加しています。「2018年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」によると、入社予定者1人あたりの採用費平均は53.4万円、内定後にかかる費用平均は61.0万円でした。
早期離職してしまえば、最低でもこれらの費用が無駄になります。逆にいえば、オンボーディングによって離職率を低下させることで、大きなコストダウンが可能になるのです。
生産性の向上
効果的なオンボーディングが実施できれば、新入社員がパフォーマンスを発揮するまでの期間が短くなります。早い段階で戦力として企業の業績に貢献するうえ、指導役の社員も本来の仕事に集中できることから、総合的に生産性を高められます。
既存社員を含めた従業員エンゲージメントの向上
一方、オンボーディングのデメリットとしては体制を整備するために時間とコストがかかること、オンボーディングを実施してから成果が出るまでに一定の時間を要することなどが挙げられます。
オンボーディングのポイント
ここでは、オンボーディング実施のポイントを、具体的な施策も挙げながら解説していきます。
人事部が信頼関係の土台を作っておく
株式会社リクルートキャリアによると、早期に優秀な人材として活躍し始める人のうち約8割が、入社前に人事担当者と十分なコミュニケーションを取っていた経緯があるとのことです。
新入社員が疑問・不安に思っている企業情報をオープンにすることで信頼関係を得ていることが、その後の成長によい影響を与えています。入社前の人事担当者とのコミュニケーションは、将来に大きな影響を与えるオンボーディングの一部です。
スモールステップ法を取り入れる
スモールステップ法とは、目標を細かく設定しながら最終的な目標達成を目指す教育手法です。学生の教育現場や子育てに使われています。
また、これはオンボーディングでも有効です。
入社まもない新入社員にとって、成果が出るまでに長い時間を要するものはストレスがかかりやすく、そのため目標を見失ってしまう傾向があります。
オンボーディングにおいてはスモールステップ法を取り入れることも検討しましょう。スモールステップとは、いきなり大きな目標を掲げるのではなく、小さな目標を順番に登っていく仕組みのことです。
新しい職場で初日から自身の実力を完全に発揮できる人はいないでしょう。企業ごとのやり方や、取り扱う商品知識を身に着けなければ、そもそもの職務を全うすることはできません。
入社後、早期に活躍できることで会社にもたらす利益が増大します。活躍までの期間を短くするのもオンボーディングがもたらすメリットです。
メンター制度導入を検討する
メンター制度とは、年齢や階級が離れていない新入社員に近い立場の社員がサポート役になる制度です。似た制度であるOJT制度との違いは、人間関係についての悩みなど、業務以外の領域まで含めてフォローを行うことです。
メンター制度は、直接の上司ではなく、先輩関係である社員が教育係として関わることです。
多くの企業では、職場環境や業務に慣れやすくすることで早期離職を予防し、成長スピードを速めるために、オンボーディングの補助制度として導入しています。
新入社員には、メンターと呼ばれる教育係がアサインされることが多くあります。OJTで指導係の社員が設定されることが一般的です。
業務内容や会社の細かいルールについて教育していくことはメンターにとっても大きな負担です。
そのため、メンターが業務に割ける時間や効率が悪化し、「新入社員を採用した結果、逆に業務が回らなくなり、忙しくなってしまった」というケースはとても多いです。
新入社員の独り立ちまでの間が短くなることで、このようなメンターの負担が軽減されます。メンター個人はもちろん、会社全体にとっても業務に充てられるリソースを減らさなくて良いため、大きなメリットとなります。
また、メンター役の先輩社員やOJT担当者の育成スキルは、オンボーディングの成果を大きく左右します。トレーナー育成には外部機関を活用してプロに教わることが有効です。
特にテレワークによるオンボーディングなどで自社の経験が乏しいケースでは、外部機関のノウハウを取り入れることが欠かせません。
そのため、テレワーク導入に必要なきめ細やかなフォロー、1on1ミーティングの重要性や具体的な方法などを短期間で効率的に習得できます。
入社した社員が活躍することによって組織を強化することが採用活動の目的です。
今回紹介した内容、また企業独自の工夫を通して社員オンボーディングをブラッシュアップしていくことによって、より新入社員が活躍しやすく、より離職しにくくなるでしょう。
実施事例
ここまでは、主にオンボーディングの仕組みなどについて解説しました。
ですが、オンボーディングを使って、実際にどうなるのか?
そう思う方もいると思います。
ここからは、実際にオンボーディングを使って成功した企業を3社紹介します。
GMOペパボ株式会社
「オンボーディングの実施」というと、社内共通で施策するイメージがありますが、部署別にオンボーディングを実施する企業は少なくありません。GMOペパボ株式会社も同様で、企業に対する帰属意識が育ちにくいという課題がありました。
ここでの実施策は、主体的に企業経営に関わっていくために、どのようなリーダーシップを発揮したいのか表明する「やっていきシート」の導入です。
また、新入社員や教育メンバー全員が自由に会話できるチャットルームの開設などを行いました。このようにして部署の垣根を取り払うことにより、企業全体で新入社員を育てる本来の社風が発揮されるようになったのです。
日本オラクル株式会社
日本オラクル株式会社では、自主的に企業に貢献したいと考える「社員エンゲージメント」の育成を目指し、中途採用者の定着に重要であると考えました。
実施策としては以下の手順です。
初めに中途採用で軽視されがちな経営理念や組織形態、ルールなどの基礎研修を十分に行いました。
次に、OJTの段階では上司の負担を軽減しながら充実したフォローを行うために「ナビゲーター」「サクセスマネージャー」という専任のスタッフを配置。
これらを行った結果として、社員エンゲージメント率85%という非常に高い成果を上げられました。
LINE株式会社
LINE株式会社は多方面でサービスを提供していました。そのため、中途で新しく加わった社員が順応しなければならないことが多いという点こそが、スムーズな成長のボトルネックとなっているという課題感を持っていました。
そこで、自社のLINEを使って、パソコン操作や福利厚生、社内カルチャー、人間関係の悩みなど、あらゆる相談が可能なLINE上の窓口を設けました。
新入社員を新規顧客のように丁寧にコンサルジュ的なサポートをすることも、オンボーディングでは大切な要素です。