サステナビリティ・トランスフォーメーションとは?意味や事例を紹介

持続可能な開発目標のSDGsの実現が重視される現代では、経営手法においても持続可能性(サステナビリティ)を考慮する必要があります。そこで注目されているのは、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)です。

しかし、DXやGXなど似た言葉が多いため、違いや意味がわかりにくいと感じる方もいるでしょう。そのようなビジネスパーソンに向けて、本記事ではSXの概要やDX・GXとの違い、事例をわかりやすく紹介します。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは

サステナビリティ・トランスフォーメーション(Sustainability Transformation)とは、社会と企業のサステナビリティを重視した経営手法です。略してSXと呼ぶこともあります。

SXの目的は企業価値の向上です。気候変動や地球温暖化といった社会課題の解決を目指すことで、株主などのステークホルダーの評価が高まるためです。つまり現代は、社会課題の解決を同時に目指す事業展開が求められています。

またサステナビリティ・トランスフォーメーションを実現するには、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」の両立を目指す必要があります。

社会のサステナビリティ

社会のサステナビリティとは、環境汚染や人権問題といった社会課題の解決を目指し、社会や環境がより良く維持するように配慮することです。

企業が持続的に成長するには、社会全体の持続可能性が必要なためです。例えば収益性の高い事業を持っていたとしても、気候変動の悪化により異常気象が頻発すれば、事業の継続が困難になることも考えられます。そのため、社会のサステナビリティに配慮した取り組みが重要なのです。

企業のサステナビリティ

企業のサステナビリティとは、企業の稼ぐ力の持続性です。

企業の持続的な成長には、長期間にわたる稼ぐ力の維持・向上が欠かせません。具体的には、自社の強みを生かしたイノベーションの創出や、将来性を見据えた事業の見直しなどです。企業のサステナビリティを明示できれば、ステークホルダーからの信頼を獲得することもできるでしょう。

SXとDX(デジタル・トランスフォーメーション)の違い

DXとはデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、デジタル技術を用いて新たな価値を消費者に提供したり、企業の競争力を高めたりする取り組みです。代表例には、ソフトウェアなどを活用した業務効率化や業務フローの改善があります。

SXは事業の持続可能性を重視した中長期的な取り組みで、DXは業務の効率化や競争力の強化といった短期・中期的な取り組みといえます。

ただしSXとDXは、無関係ではありません。DXを推進し、業務を効率化すると消費エネルギーを削減できます。消費エネルギーの削減は地球環境の負担を軽減できるため、同時にSXの推進につながるためです。

SXとGX(グリーン・トランスフォーメーション)の違い

GXとはグリーン・トランスフォーメーションの(Green Transformation)の略で、脱炭素社会の実現を目指し、産業構造や社会システムの転換を図る取り組みです。具体的には、化石燃料の使用をできる限り抑え、再生可能エネルギーに切り替えることを指します。

GXの推進は温室効果ガス排出の削減につながるため、SXの一部に含まれる取り組みです。ただしSXは、人権問題や多様性、貧困などの環境問題以外もテーマになる点が異なります。

SXが注目される背景

2022年、経済産業省は「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」において、サステナビリティ・トランスフォーメーションの重要性を紹介しました。このようにSXが注目される背景は、地球規模の課題が深刻化しているためです。

大量生産・大量消費による資源の枯渇や大気・水質汚染、あるいは地球温暖化が悪化すると、経済活動ができないだけではなく人類が生活できない可能性すらあります。

そこで企業においては、SXにより成長を維持しつつ、社会課題に対しても取り組むことが重要と考えられているのです。また企業がSXに取り組むことで、イメージアップや企業価値の向上といったメリットがあるのも注目される理由といえるでしょう。

SX推進に必要なダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティとは、デイヴィッド・J・ティース氏が提唱した経営戦略論のことで、企業の変革力や対応力を指します。

SX推進にはダイナミック・ケイパビリティの強化が必要です。不確実性が高まる現代において、企業のサステナビリティを実現するには企業変革力が重要なためです。

ダイナミック・ケイパビリティは、具体的に以下の3つの能力を指します。

  • 感知(センシング)

脅威や危機といった企業のリスクを感知する能力

  • 捕捉(シージング)

ビジネスチャンスを捕捉し、既存の資産・知識・技術で競争力を獲得する能力

  • 変容(トランスフォーミング)

競争力を維持するために、組織全体を刷新していく能力

つまりSXの実現には、上記の3つの能力を強化しつつ、社会課題の解決を同時に図ることがポイントです。

参照:経済産業省「第1部第1章第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化

6.0 国内企業のSXの取組事例

SXは新しい概念のため、「具体的にどのような対策が必要かわかりにくい」と感じている方もいるでしょう。そこで参考として、国内企業の取組事例を紹介します。

TOYOTA:トヨタ環境チャレンジ2050

出典:TOYOTA

トヨタは1960年代から環境への取り組みを実施してきた企業です。そのため、日本でSXの概念が注目される前から「社会のサステナビリティ」に取り組んでいます。

そのトヨタは、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を策定しました。「トヨタ環境チャレンジ2050」とは、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」の領域における6つのチャレンジのことです。

その成果として1997年以降、2030万台以上の電動車を販売し、約1.62億トンの温室効果ガス削減に貢献しています。さらには、「2035年までにグローバル全工場でのカーボンニュートラル達成」や「欧州において2040年にカーボンニュートラル達成」を目指すなど、高い目標を掲げています。

トヨタの2023年の売上高は約43兆円で過去最高となる見通しです。SXにより持続的な成長を遂げている成功事例といえるでしょう。

住友商事:100SEED(ワンハンドレッドシード)

出典:住友商事

住友商事ではサステナビリティ推進部を設置し、企業を取り巻く以下の6つの社会課題や環境問題の解決に取り組んでいます。

  • 気候変動緩和
  • 循環経済
  • 人権尊重
  • 地域社会・経済の発展
  • 生活水準の向上
  • 良質な教育

例えば、「良質な教育」での取り組みは100SEED(ワンハンドレッドシード)です。100SEEDは、世界各国の住友商事グループの社員が自らの地域社会の教育課題に取り組むプログラムです。

このようにカーボンニュートラルの実現だけではなく、多分野の課題に取り組んでいるのが住友商事のSXの特徴といえるでしょう。

現代の企業にはSXの推進が求められている

SDGsに代表されるように、現代は持続可能な社会の実現が世界の共通目標となっています。そのようななか、企業においても持続的に成長するにはSXの推進が重要です。ぜひこの機会に、社会問題の解決と同時に事業の成長も期待できるSXに取り組んでみませんか。